どこにこれほどの数が隠れていたのかというほど、魔物達は次々と現れ、襲い掛かってきた。牙を持つ獣、意思を持つ石像、その他諸々十数匹。
どうやら我々の探索は、この遺跡を縄張りとする魔物達を刺激してしまったらしい。
氷原の東端に浮かぶアヴィーロの遺跡にて、我々は激戦を繰り広げていた。
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魔獣のしなやかな脚が石畳を駆け、牙が胸元に食らいつく。盾で振り払いながら私は周囲を見渡し、状況を整理した。
隣ではドラゴンキッズのソラが必死で応戦中である。一匹一匹は後れを取るほどの相手ではないが、数が多すぎる。彼は目の前の敵に意識を集中するタイプで、集団戦向きではないのだ。
後方では僧侶のリルリラが援護の呪文を飛ばしているが、遺跡の奥から次々と溢れ出る魔物の群れに、前線の決壊は時間の問題に思えた。
私は撤退の指示を出した。悔しいが、戦況の不利を認めざるを得ない。見た目は雑魚の集まりだが、かなりの難敵である。
三十六計逃げるに如かず。さよなら三角また来て四角。ここは一旦出直そう。
遺跡の入り口まで下がり、しばらく様子を見るも、敵が遺跡から去る気配はない。かなり強固な縄張り意識をもってこの地を占拠しているらしい。
そして次々と現れる増援、あれが非常に厄介である。
ならば、とこちらも援軍を呼び寄せる。ドラキーのラッキィ。更に僧侶をもう一名。
仔竜を待機させ、魔法戦士、ドラキーに僧侶2名の編成で第2回戦の始まりだ。
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出だしは好調だった。星の無い夜空から、蝙蝠が流星を呼び寄せる。さすがはドラキー、集団戦はお手の物だ。
だが、厄介なことに敵の増援の中に、眠りの魔法を操る者がいた。これが誤算だった。
妖しい輝きが遺跡を染め上げる。途端にぺたりと床に落ち、すやすやと眠るラッキィの姿。ええい、蝙蝠が夜に寝るんじゃあない!
叩き起こそうとした瞬間、私も眩暈に襲われる。リルリラも同じだ。これではたまらない。
再度撤退、ラッキィと私の装備を眠りの魔法に備えて整え、三度突入。
さすがに三度目ともなれば敵の顔も見知ったものだ。
第一陣は三匹の魔獣。これはそこまで怖くない。それぞれを攻撃しつつ、しばし様子を見る。
やがて第二陣が現れ、一気に敵だらけになる。ここで私はカードを切った。
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オーロラを遮るほどの爆光が一瞬、遺跡に満ちる。魔法戦士の切り札、マダンテである。弱った第一陣が消し飛び、第二陣もあらかたが重傷を負う。
ドラキーと組んだ時の魔法戦士には、これがあるのだ。
残った敵をラッキィが掃討する。第二陣も片付いた。
だが、ここからが我慢の時間だった。第三波の撃破に手間取るうちに第四の波が到来し、防戦一方となる。右も左も敵だらけだ。左右両方に気を配り……後方からの一撃で石畳をなめる。
この手の集団戦で時間をかけすぎると、こういう目にあう。
が、しかし。
時間は全てのものに平等だ。時間をかけすぎたというのは、敵にも言えることなのだ。
マジックルーレットで既に魔法力は回復していた。
最初のマダンテからかなりの時間が過ぎ、再び身体に魔力が漲るのを感じる。
リルリラの呪文で立ち上がった私は、ラッキィに目配せをした。ここに勝機あり!
蝙蝠の歌が私の魔力を覚醒させるや否や、本日二度目のマダンテが炸裂する。攻勢を維持していた魔物たちが一気に吹き飛び、散り散りとなった。
生き残りはほんの数匹。ラッキィが軽く蹴散らした。正に、一発逆転である。
この状況に業を煮やして現れたのは、魔物たちの首領格と思われる三匹の魔獣である。
これもまたかなりの難敵だった。
僧侶二人でも怒涛の攻撃を支えきれない。時には私もファランクスで守りを固め、世界樹の葉を撒くことに徹しなければならないほどだった。
おかげで、これもかなりの長期戦となった。
そう、長期戦に。
ならばもはや決まり手は一つ。
本日三度目のマダンテが敵を薙ぎ払う。これで三匹の内、一体が倒れた。
あとは、消化試合である。
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ほうぼうの体で逃げ去る魔物達を見送り、私は大きく息を吐いた。リルリラはその場に座り込み、ラッキィも地べたに寝そべった。
全く、恐ろしい相手だった。しかも、彼らは遺跡を縄張りにするただの魔獣に過ぎない。
ただの魔獣がこの強さならば、数多くの冒険者を返り討ちにしたというこの領界の"試練"は、どれほど手強いというのだろう。想像しただけで眩暈がする。
私もこの場に倒れこみたい気分だったが、残念ながら時間がない。
あくまで一時的に追い払っただけのこと。ここが彼らのテリトリーであることに依然変わりはないのだ。時間をおけば、更なる増援を連れて報復にやってくるだろう。今の内に遺跡を調査してしまわねばならない。
疲れた体に鞭打ち、私は探索を再開した。