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アヴィーロの遺跡を、虹色の風が通り過ぎる。
朽ち果てた礼拝堂を、色とりどりのステンドグラスが今なお美しく飾る。
そして私の目の前には、その輝きをも陰らせるほど、強い光を放つ不思議な石が、御神体のように恭しく飾られていた。
イーサの住民たちは、これを極光の魔鉱石と呼んでいるらしい。
探索を進めた私は、遺跡の最上階へとたどり着き、このクリスタルを発見した。
オーロラ光を一身に受け、美しく煌めくこの石には不思議な力が宿ると信じられており、今でも重要な儀式の際にはこの一部を削り取ったものが祭具として使用されるらしい。
なるほど、確かにそれも頷けるほどの神々しさだ。
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アヴィーロの遺跡は、探索者である私に多くの驚きをもたらした。
最初に気づいた通り、足場が氷ではなく、建築物も石造り。この時点で今の氷の領界とは一線を画する文明の名残であることが分かる。
しかし共通点もある。規則的なタイル模様やステンドグラスを初めとした美しい装飾は、あの村で見たものとそっくりだ。言うなれば、この遺跡の建築物をそっくりそのまま氷で再現したのがイーサの村なのである。
私は改めて周囲を見渡した。礼拝堂の窓から外を覗きこむと、下界を見下ろすような景色が飛び込んできた。
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氷原ははるかに遠く、あの巨大な竜骨でさえ、ミニチュアのようだ。嗚呼、と、私は呻くような声を上げた。眼下には薄紅色のモヤが雲のように流れる。その光景はあたかも雲上の都市から地上を見下ろすかの如しだ。
天空の大地……
唐突に、全ての糸がつながったような気がした。
伝承によれば、かつてのナドラガンドは、五つに分かれた異世界などではなかったそうだ。我々の住むアストルティアの頭上に浮かび、全てを見下ろす浮遊世界だったのだ。
そしてこの遺跡こそ、まさに浮遊大陸ナドラガンドの残滓ではないか。
凍てついた領界で、ここだけが氷に覆われていないのも、世界が氷の閉ざされる以前の建造物だと考えれば説明がつく。
何らかの理由でナドラガンドが引き裂かれ、五つの領界へと変わり果てた時、この地の住民たちは今のイーサの村にあたる氷の大地へと移り住んだのではないだろうか。記憶も記録も失われたが、ステンドグラスを初めとした一部の建築様式は受け継がれたのだ。
彼らにとっては、忘れ去った遠い故郷。永劫の輝きを放つオーロラだけが、今も変わらず両者を見下ろしている……いや、これは少々詩人を気取りすぎたか。
もちろん、全てが推測で、確証はどこにもない。ひとしきり空想を楽しんだところで、私は周囲に不穏な空気を感じ取る。どうやら、魔物達が再び徘徊し始めたようだ。探索はここまで。引き上げの時間だ。
とりあえず、この地の土壌をサンプルとして少し持ち帰ることにしよう。学者たちへの土産になる。
さて、推測はどこまで当たっているのか。真実は神のみぞ知る。いつか、答えが出るだろう。
空を見上げると、極光が穏やかに私の瞳を撫でた。
クリスタルはただ静かに、その光を湛えていた。