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開演直後、私の最初の指揮は、戦士とラッキィへの待機命令だった。
魔力の歌と真・刃砕きを入れた直後の静止。出鼻をくじかれた彼らはやや不満げだったが、ドン・モグーラのコンサートはドンのソロから始まるのが通例である。今の内に態勢を整えておこうというわけだ。
ピオリムとライトフォース、バイキルト。そして重要なのが不気味な光。ドンの呪文耐性を引き下げておくことが後々重要になってくる。
準備が整ったら待機命令を解除、程なくしてドンは最初のスタイルチェンジを開始する。
ここで私は、戦士に再び待機命令を出す。またか、と戦士は顔をしかめたが、ドンの頭にそびえ立つ緑色のアフロヘアーを見て納得したようだ。
あのアフロをかぶった時のドンは、呪文以外の攻撃を喰らうと力を増す体質を得る。そして酒場で雇った冒険者は敵の大技を回避できない。つまり力を溜めさせてしまえば即、全滅の危機につながるのだ。
回避できないなら耐えられる環境を作るしかない。拙攻は自滅。ここはラッキィの呪文に任す。
だが、しかし。
これで万事うまくいくというほどモグラの楽団は甘くない。しばらくして、地面からモグラの楽団員たちが飛び出した。これを見て、ラッキィは流星呼びの技を使い始める。
私にとっては頭の痛い問題だ。流星呼びは呪文ではない。つまりドンを強化させてしまう。
流星呼びを禁止するという手もあるのだが……のちのち、この技は重要になってくる。
ではどうする? 私は、この状況を強制的に終わらせることにした。
フォースブレイクをドンに浴びせ、問答無用のマダンテで楽団員ごとアフロを吹き飛ばす。魔力の歌と不気味な光により、マダンテの威力は最高値まで高まっている。
モグラの大将は次なるスタイルチェンジを余儀なくされる。黄色のアフロ。ここで戦士の待機命令を解除し、ラッキィを待機させる。
今度のドンは呪文で力を高めるスタイルだ。今まで待った分、戦士には大暴れしてもらおう。
私はマダンテで使い果たした魔法力を回復しつつ戦士の補佐を行う。ルーレットが回れば理想的だ。
だがやはりここでも厄介なのは増援。石床から飛び出したモグラたちの中に、見知った顔があった。モグやん・スターシーカー。今やエリート団員の一人となった彼は旧友の私にも容赦なく、苛烈な攻撃を仕掛けてくる。ここが最初の山場となる。
私は剣を手に取った。
ギガブレイクやギガスラッシュは光の刃で敵を薙ぎ払う剣士の象徴的な技だが、今となっては威力不足が目立つ。が、ここで光を放つのは海魔の眼甲。
並み居る敵を倒すたびに眼甲の魔力で力がみなぎり、ギガスラッシュが威力を増す。これに宝珠とベルトの力も合わさり、辛うじて実用的な威力を実現できるのだ。
意外な破壊力にモグラの大将がバランスを崩す。
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ドン・モグーラの周囲に手下が密集している場合は戦士も斧をグルグルと振り回し、複数の敵に対処してくれる。
そして……私はラッキィにも攻撃指令を出す。そう、敵が密集している状況なら、彼は呪文ではなく流星呼びを使うのだ。先ほど私を悩ませたドラキーの性質を逆手に取る戦術だ。
これで、我々はドンを刺激することなく、モグラのエリートたちを殲滅できる、というわけだ。
とはいえ……
ドンがどれくらい増援を呼ぶか、エリートたちの攻撃と大地揺らしが重なるかどうか。そして敵が密集してくれるかどうか。それ次第では戦術が破綻してしまうこともある。正直、ここは運に左右される場面である。
今回の我々は、どうやら幸運の女神に微笑んでもらえたらしい。
そして、演奏会はクライマックスへ。
ここからが本番、なのである。