その日、サルバリータは不機嫌だった。
先日、彼女の元に入門した二人の弟子が、揃いも揃って舞台に立とうとしないからだ。
「貴方の推薦だったわよね、魔法戦士さん」
「……まあ、人には向き不向きというものがありますからな」
内心の冷や汗をサングラスの内側に押し隠し、私はなんとかポーカーフェイスを保つのだった。
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計画は粛々と進行中だった。私が懇意にしている三人の冒険者たちは、それぞれに練習札を受け取った。
彼らのパーティに酒場を通して私とリルリラが加わり、Sキラーマシンとの戦いを体験しようというのが今回の目論見だ。
無論、勝利は望めないだろうが、敵を知ることはできる。私が練習札を使う前に、下見ができるだけでもかなり違うはずだ。
ただし、あまりあっさりと負けてもらっては下見にもならない。
そこで私が白羽の矢を立てたのは、スーパースターという職業である。性格には、彼らが雇うボディガード達の耐久力に、だ。
ボディガードさえ呼んでおけば、いくら弱くても簡単には落とされない。思う存分、敵を観察できるのだ。
ダーマ神殿出張所の利用資格自体を得ていなかった一名はここで脱落したが、二名いれば下見は十分。早速私は彼らをサルバリータに弟子入りさせた。
彼女の入門試験は面倒なことで知られているが、備えあれば患いなし。ここでタンスの奥にしまっておいたマカロンが役に立った。
「……それって2年ぐらい前のじゃない?」
リルリラは顔をしかめた。
ま、保存状態が完璧なので腹を下すようなことは無いだろう。多分。
無事、転職を完了した二人はスーパースターとしての修業に励んだ。何も本格的な訓練を施す必要はない。要はボディガードさえ雇えればよいのだ。
右手に元気玉を、左手にメタル迷宮招待券を。あの迷宮なら、修業も楽なものである。
「……なんか、死にかけたって言ってたよ」
と、リルリラ。
どうも、メタルブラザーズが強敵だったらしい。次々と投げかけられるメラストームの連弾。
冒険者として初めて死線を乗り越えた二人は、大いに成長したに違いない。
「メタル迷宮で死線を乗り越える人、初めて見たけどね」
とは、リルリラの感想である。
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こうして準備は整い、まずは一人目が戦いを挑んだ。
今回はリルリラのみならず、私も僧侶としての参戦である。不慣れな職業だが、最低限の働きはできる。
もう一人は酒場の冒険者。こちらも僧侶だ。とにかく生き延びて敵を観察することだけが目的である。
収穫はいくつもあった。
まず、敵の攻撃のいくつかが、回避可能であることが判明した。あの牙王の突進に比べれば、どうということはない。
また、麻痺や呪いといった搦め手は使わない。これは嬉しい情報である。
増援の有無も確認した。かなり特殊な形だ。
援軍の行動を阻止する方法もわかったが、酒場の冒険者との共闘では、完全に食い止めるのは難しいだろう。
ただし、即座に全滅につながるような危険な行動はなく、実際、今回挑んだ冒険者はかなり長時間、戦闘を続けることができた。
「これならなんとかなるかもね」
リルリラはお気楽に言ってのけたものだが、この調査結果に私は一つの懸念を抱いた。
敵はまだ、本来の実力を見せていないのでは……?
体力が減るまで、実力を温存するというのはよく聞く話だ。攻撃力を全く持たない構成で挑んだのは、調査の観点からしてもまずかった。
そこで、次の冒険者にはゴールドシャワーを習得して挑んでもらうことにした。
勿論、倒すことが目的ではなく、敵の力を引き出すことが目的である。
果たして、敵はやはり真の実力を隠していた。
増援の質が変わり、本体もモードチェンジを披露する。賢者か、それに近い能力の持ち主が必要だろうか。
ここで、二人目の冒険者も力尽きた。
三人目はリルリラ。彼女はこれまでの二人と違ってそれなりの実力を持つ冒険者である。何より、酒場で雇える冒険者の質が違う。
僧侶2名に魔法使い、賢者の構成で戦いを挑むも……
「とり……が……いっぱい……ぐふっ!」
以上、調査員リルリラが最後に残した言葉である。
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こうして、私以外の冒険者に練習札を使わせ、情報収集と図るという計画は一旦、完了した。
惨敗続きだが、敵を知る、という意味では大いに収穫があった。とりあえずリルリラたちには後で食事でもおごっておくことにしよう。
さて、本来なら、次は試行錯誤の段階に入るのだが、残る挑戦権は一回きり。
どうしたものか。私は思案に試案を重ね……
そして決戦の日がやってきた。