鋼の兵士が大剣を大きく振りかぶる。一撃必殺の重く鋭い斬撃だ。が、私は弧を描く動きで余裕をもって回避運動をとる。ややあって、空を斬り地を裂く音が私の背後で響いた。この動きは、予習済みだ。蝙蝠が快哉の声を上げた。
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魔法戦士の私と、ドラキーのラッキィ。そして雇った僧侶が二人。これが今回のパーティである。悩んだ挙句、定番のパーティに落ち着いたともいう。
"予習"の甲斐もあり、序盤戦はこちらが優勢だった。Sキラーマシーンはこれといって決定的な一撃を決めることができず、我々は十分な余力をもって敵を攻め立てていた。
だがこれがいつまでも続かないということもまた、予習によりわかっていた。
やがて、敵が本気を出し始める。Sキラーマシーンの装甲が熱を帯び、空気を歪ませる。と同時に彼の周囲には赤い機械鳥が現れた。
視界が歪むほどの強烈な磁気を軸に、機械たちが陣形を組む。私の剣も気を抜くと引き寄せられそうだ。
ここで私は得物を弓に持ちかえる。狙うは赤い単眼。ロストスナイプの構えだ。冒険者からの評価は散々だが、魔法戦士にとっては、力を蓄えた相手に対抗できる唯一の手段である。
まずこれでSキラーマシーンを落ち着かせ、次に赤い鳥を巻き込んでマダンテを放つ。
増援の行動を阻止できないならば、まとめて薙ぎ倒すのみ。酒場の冒険者と共に挑む私にできる、せめてもの抵抗がこれだった。
ラッキィの歌により威力を増したマダンテならば、大抵の敵は消し飛ばせるはずだった。
だが。
爆光が視界を包み、それが晴れた時、私は信じられないものを見た。
赤黒の機体。磁力につながれた鋼の翼。無機質な瞳。
プスプスと煙を上げながらも、鳥たちは未だ健在だったのだ。
そして再びの閃光! これは私の呪文ではない! フラッシュボムが炸裂し、私の視界は真っ白に灼かれた。チカチカと点滅する白と白。その奥から、爆音と共に熱が走り来て私の身体を貫通した。
爆発!
鳥たちの自爆に巻き込まれた私が辛うじて意識を取り戻すことができたのは、僧侶たちの奮闘ゆえである。
立ち上がった私はしかし、暗澹たる思いに重い脚を引きずった。少なくとも剣や弓を装備してのマダンテでは、ラッキィの力を借りてなお、あの鳥たちを倒せなかった。
これにより、今回の戦術は完全に否定されたことになる。
試行錯誤の第一歩としてはこれも成果の内だが、しかし……練習札は一枚限り。
なんとかこの状況から勝利を目指さねばならないのだ。
私は仕方なく、敵の増援に合わせて防御態勢をとることにした。ファランクスにアイギス。守りの技で防御を固め、できるだけ敵から遠ざかる。
仲間たちを守ることはできないが、鳥たちのバンザイ・アタックが収まった後で世界樹の葉を配ることはできる。
ただし、こちらから攻撃できるのは、Sキラーマシーンが単機でいる間のみ。
フォースブレイクも効きづらい。戦闘は長期戦の様相を呈しはじめた。
機械兵士のエネルギー値を表わすメーターが半分を切ったあたりで、戦況は更に過酷になる。Sキラーマシーンが増援を呼ぶ頻度が上がり、さらに現れる増援の数自体も増えていく。
電子音でさえずる鋼の鳥が、たえまなく輪唱を続ける。もはや、いつ特攻が途切れるのかもわからない。
閃光、爆発! いまこそ、と仲間たちに駆け寄った私は、まだ爆発していない鳥が一機、残っていたことに気づく。
時間差爆発!
気づいた時には既に遅い。私の視界は真っ暗な闇に落ちていった。
こうして、私の挑戦はあえなく終わった。
戦果といえば敵の体力を半分減らした程度。収穫はマダンテで鳥が落ちないことと、フォースブレイクが効きづらいことが分かったぐらいだ。
さて、どうするか。
マダンテ作戦が不発ならば、あえてラッキィを連れて行く必要性は薄い。
せめて敵の攻撃を弱めるために戦士をつれていくか。あるいは思い切って僧侶をもう一人増やすか。
逆に敵が増える前に押し切るという方向で、僧侶を減らすという考え方もある。
手札は様々。試行錯誤はこれから……と、いいたいところだが、手札があっても練習札はもう品切れだ。
せめて、ドロシーが身代わりコインを使わせてくれればそちらで挑戦する手もあったのだが……彼女はそういう器用なことができるモコモコ獣ではないらしい。
残念ながら、ここで一旦、挑戦を中断せざるを得ない。
とりあえず敵の脅威は嫌というほど体験できた。それを何よりの成果とさせてもらおう。
「……で、練習札の入荷はいつになるのかね?」
「さあ」
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カードにスロット、ギャンブラーたちが集うラッカランのカジノ。
景品係リーニャは笑顔という名のポーカーフェイスで私を軽くあしらうのだった。