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幾何学模様の連結橋から、ヘックス模様の空を再び見上げる。
初めて見た時と比べて、不気味な静寂を感じるのは気のせいだろうか。
空中都市を闊歩する機械の足音が、寒々しく空に響いた。
先の戦いの負傷も完治し、解放者殿から遅れること一巡りほど。私は再びカーラモーラに別れを告げ、"楽園"を訪れていた。
目指すはこの領界に残された最後の未踏地帯、試練の聖塔。
もっとも、この場所を闇の領界と呼んでよいのかどうか、はなはだ疑問ではあるが。ともあれ、地神ワギが造ったという聖塔は、我々にまた一つ、ナドラガンドの真実を教えてくれるに違いない。
だが、聖塔を目指す我々は、見慣れたシルエットの出現にその歩みを一時、止めることになった。
一瞬の警戒。思わず剣に手が触れる。
だが重金属の楕円形ボディは、我々の存在を感知すると、無感動に音声を発した。
「支援端末P109。挑戦者ヲ支援シマス」
「どうやらQ484とは別タイプの機体のようですね」
キラーマシーンのジスカルドは黄金色のロボットに近づき、サーチライトを当てると、そう判断した。
「他にロボットはいるのか?」
私が訊ねると、支援端末P109は事細かに答えた。
哨戒用の戦闘機兵が数ダース。作業用の支援端末が自分を含めて数体。そして管理端末が一機。
最後の情報が最重要だ。
サジェ達から、話だけは聞いていたが……。
「複雑な気分だな」
支援端末の示した座標にて、黙々と作業を続ける管理端末を発見し、私は長い息を吐いた。
「超長期的な任務に就くロボットにとっては、決して特別なことではありません」
「ふむ……」
疑似的な不死、とでも言うべきか。もっともロボットに死の概念があればの話だが。
私はふと、病室に見舞いに来た際、サジェが呟いていた言葉を思い出した。
「ジスカルド。君の予想で構わないんだが……」
と、ジルカルドを振りむく。
「あの少年とあのロボットは、友人になれると思うか?」
ジスカルドは、しばし機能停止したように沈黙を保った。
そして一言、
「サジェも私に、同じ質問をしました」
と、呟くように言った。
赤い単眼がゆっくりと点滅する。過去の記憶を反芻する時、ロボットは何を思うのだろう。
「その答えを、聞かせてくれるか」
やがてモノアイに輝きが戻った。ロボットは滔々と、思考結果を出力し始めた。