なりきり冒険日誌~神代の春の歌(2)
リドルが解けずにおめおめと戻ってきたのは常春の都、カミハルムイ。相も変わらず舞い散る桜が艶やかだ。
せめてもの抵抗にと、カミハルムイの蔵書をあたって関係のありそうな記述を探してみたが、すべて空振りに終わった。
代わりに、といっては何だが、ハネツキ博士とドルワームのドゥラ院長の交流を示す書簡を偶然発見した。
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和を重んずるエルフ族にあって、マイペースで独特の雰囲気を持つ彼女のことは以前から気になっていたのだが、意外な人間関係があったものだ。
新進気鋭の研究者たちの交流は、いずれ新しい発見を生むかもしれない。この関係は覚えておこう。
さて、歌の解読は諦めてバショオ殿のもとへ。賢王ニコロイ様より直々に、この任務に抜擢された翁の推理やいかに。
氏の出した答えは……
キヨ クサ
なんだ、私と同レベルか。
……だが、さすがにバショオ殿。それはこの城の中にあるものだろうか、と、さらに謎をかけられ、鈍い私もようやくピンときた。
それの指し示すものを写真にとれ、と言われて私はニコロイ王の元へ。
実は既に先日、ニコロイ王の写真を撮らせてもらったのでそれで代用しようと思ったのだが、そういうわけにはいかないらしい。
そして写真を見せると、歌の作られた時代を考えろ、と言われてまたも自分の迂闊さに気づく。
どうも、氏は答えを知っていて私をからかっているような気がする。
一路、夢幻の森へ。
リドルを解くと、やはりというべきか出現した魔法の迷宮。ここまでくれば、もう迷う要素は無い。特に何ということもなく探索を進める。
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それにしても、ここの床は磨きすぎではないだろうか。まるで鏡だ。
スカート履きじゃなくてよかった、とはお供のリルリラの感想だ。
ちなみにここの守護者は彼女にとっては懐かしい顔だったらしい。
王者の武具を手に入れ、一件落着。
ところで、一つ気になっていたことがある。
あのガケっぷち村の崩壊。姫たちにより最小限に食い止められたとはいえ、やはり村ひとつ壊滅するのは大変な事件だ。にも拘わらず、落陽の草原から目と鼻の先のカミハルムイでさえ、その噂を聞かない。平和そのものだ。
パニックを恐れて王が情報規制をかけているのだろうか。
だとすれば、賢王と呼ばれ、老齢に差し掛かってますますの冴えわたりを見せるニコロイ王。その名に違わず相当の辣腕家のようだ。
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そういえばこの方もヒメア殿と同じく長身のエルフだ。ヒメア殿と違って術を施したという話も聞かないので、体型と術は関係ないらしい。エルフの中でも高貴な一族には、他と違った血でも流れているのだろうか。いわばハイエルフとか……。
エルフのリルリラにそのあたりを訪ねてみたが「さあ、知らない」という明快な答えが返ってきた。
さて、最後にバショオ殿が私に宛てて一句、詠んでくれたので、それを記しておく。
「若人よ さだめを超えて 王者たれ」
バショオ殿は確かに知恵者だが、俳諧の才覚はなさそうだと思った。
……いや待て。
歌とリドルが本題となった今回の探索。この歌も何かの意味が……?
例によって頭の言葉をつなげてみよう。
「若」「さだ」「王」
若さだ! 王!
………。
若さって何だ。振り向かないことか。
ニコロイ王は名君とはいえもう若くない。そういうことを言いたいのだろうか。
考えてみれば、世継ぎのことは聞いたことがない。
後継者問題がそのうちカミハルムイを悩ますことになるのかもしれない。