乾いた砂埃の中に、かすかに混ざる潮の香。メギストリス領の南東、チョッピ荒野はプクランドの文化における広大な空白地帯である。
打ち捨てられた炭鉱と古い長城跡がわずかに過去の文明を伝えるのみで、後は見渡す限り、砂の大地。
かつては冒険者たちの修行場として賑わったこともあるが、今やそれも廃れて無人の荒野。
暴れ馬の試運転には最適の場所と言えるだろう。
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この馬はミカヅチマルといい、エルトナ大陸のさる名家から譲り受けた、いわくつきの馬である。
私と彼の馴れ初めについては、いずれ語ることにするとして、今はたてがみから伝わる荒々しい躍動感と、絶え間なく私の身体を揺らす激しい震動についてお伝えしておくとしよう。
うっかり気を抜くと振り落とされそうになる。必死で馬にしがみつく。少しスピードを緩めるように指示を出してみたのだが、ミカヅチは気難しい顔でブルンと鼻を鳴らすだけだった。かなりの荒馬である。これを乗りこなすのは、なかなか骨が折れそうだ。
だが、風を切るスピードの爽快感は何物にも代えがたいものがある。
まして、新調した衣装に身を包んでいるとなれば、その快感は数倍にも膨れ上がるものだ。
今回のコーディネイトの中心は、先日占いの館を訪ねた際、記念品として進呈された占い師のマスク。
このマスク、単純に見えてこれまでにない性質を持つ装備品である。
目元でなく口元を覆うマスク。それも、兜や帽子と両立できる。
ヘルメットタイプの兜と併用すれば顔を守る面頬になり、布装備と合わせればエルトナの古代戦士シノービー達が愛用したいう覆面を再現することもできる。
一つ、これを使ったコーディネイトを考えてみようと、ここ数日の私は暇さえあれば姿見を覗き込んでいた。
まず、頭。
いつものようにノーブルハットやアドミラルハットを使うことも考えたが、やはりこのマスクは頭全体を覆うタイプの装備と相性がいい。
あれこれと試したが、どうやら盗賊のターバンが一番私の好みに合うようだ。
ただしこのターバン、同じ色のマフラーと併用することが前提のデザインである。そして着色不可という重い枷を背負っている。
同じ盗賊装備のチュニックならば当然、ぴったり合うのだが、個人的にはもう一工夫してみたい。
あれこれと悩んだ結果、聖騎士の鎧が上手く合わせられることに気づいた。重装備でありながら、面積の大部分をサーコートで包んだ独特の外見を持つ鎧である。
下半身には、以前、猫魔道のニャルベルトたちがモンスター闘技場で獲得してきた魔物導師のズボンを使わせてもらった。これがなかなか上手く合う。
足元には無難に木の葉のブーツを合わせる。
残るは腕だが、聖騎士の鎧は流石に重鎧だけあって、かなり目立つ金属製の肩当がついている。
これが浮いてしまわないように、腕にもそれなりのボリュームが求められるのである。
姿見を幾度も切り替えた結果、どうやら凱歌のガントレットがよく合うことが判明。2世代ほど前の装備であるため、非常に割高であるが、致し方なし。
後は色を整えて完成である。
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イメージは異国の戦士。どことなくアラハギーロ風だが、あの国でこの真っ黒な衣装はいかにも暑そうだ。ま、そこはご愛嬌といったところか。
絨毯に乗ってみてもなかなか良い雰囲気である。荒馬をならしつつ、こちらも併用することになりそうだ。
しばらく、占い師や魔物使いの時この衣装を使ってみることにしよう。
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さて、衣装を決めたなら、戦い方も決めなければならない。
幸い、私は占い師の扱う武器のうち、棍以外は全て扱える。あまり武器で戦う職業ではないようだが、せっかくなので、これを活かしてみたい。
そんなわけでタロットは補助、回復や蘇生中心にまとめ、普段は援護を重視。攻撃が必要なら武器で行う、というスタイルを目指してみた。
ただし、攻撃用タロットのうち、隠者のタロットだけは入れておく。これで雷への耐性を弱め、ライトニングソードで攻撃という一人連携を目指してみたいのだ。
耐性低下の成功率を上げるため、普段は鞭を使い、成功したら剣に持ちかえるというのも面白そうだ。
しょせん、片手間の占い師。その道のプロには到底及ばないだろうが、気分転換で目先を変えてみる分には丁度いいだろう。
ところで……
占い師の武器の構え方は他職と違った独特のものだが、特に片手剣はこれまでと違ったスマートなスタイルである。
魔法戦士として戦う時も、できればこちらを使いたいのだが……何故かできないらしい。
何故、構えを変えるだけのことができないのだろうか。
アストルティア七不思議に加えたい気分である。