射出! 投擲! 薙ぎ払い!
私が鎖を振るたびに、闇夜を裂いて黒い刃が縦横無尽に駆け巡る……はずだった。
ところが、刃は空中で見えない壁に当たったかのように失速し、力なく地に落ちた。
もう一度挑戦。……今度は途中で鎖が絡まってしまった。あえなく失敗。レビュール街道の石畳に空しい着地音が響き渡った。
どうも、この武器を使いこなすには生半可な努力では足りないらしい。
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私の名はミラージュ。
ヴェリナード魔法戦士団の一員である私は、古今の武器に対する興味も人並み以上に持っているつもりである。
あらゆる武器には歴史があり、その技術を発展させた戦士と社会の歩みがあるからだ。
このたび、世界宿屋協会の提供で売り出された『くさりがま』は、そういう意味で私の興味を引くに十分な代物だった。
一般に古代エルトナの特殊武器として知られているこの武器だが、奇妙なことにこの特殊武器は、世界中の伝説・伝承に頻繁に登場するのである。
魔王討伐のため伝説の都アリアハンを旅立った勇者が大陸で一番の武器を買い求めたところ、この武器を使うことになったとか、その遠い子孫にあたる二人の王子が洞窟の探索時にこれを使ったとか……冒険商人トルネコが旅立ちの時にこの武器を手にしていたという説もある。
それだけ使われているからにはさぞ使いやすい武器なのだろう、と軽い気持ちで手を出してみたが、結果は見ての通り。とんだ曲者である。
今回はこの武器について、追求してみることにしよう。
世界宿屋協会から送られてきた取扱説明書には、このように書かれている。
『大きな鎌と長い分胴が鎖でつながれており、ムチとして使うことができます』
私は魔法戦士で、鞭の扱いは専門ではないが、一通りの操鞭術は身に着けているつもりだ。
先端に刃を取り付けたムチも扱ったことがある。ヴォイドアンカーだ。
だが、あちらは先端の刃物が錨状になっており、重みがあるため振り回す際の重心が安定する。対して、このくさりがまの先端にあるのは不安定な形状の鎌である。重みもなく、全く軌道が安定しない。
仮に上手く振り回せたとして、鎌の刃は内側を向いた片刃である。余程うまく命中させない限り、この切れ味を敵に味わわすことは不可能だろう。
これを扱っていた戦士は、かなり特殊な訓練を受けていたに違いない。
そう、あの古代エルトナの伝説的戦士、『ニンジャ』のように。
もしや、くさりがまの扱いは、『ニンポォ』の一部なのではないだろうか。
だとすればニンジャならざる私には荷が重すぎることになる。
そしてもう一つ、説明書を読んでいて、気になったところがある。
大きな鎌と『長い分銅』が鎖でつながれており……という部分だ。
確かに鎌はついている。しかし、分銅がどこにも見当たらないのだ。
重みのある分銅ならば、振り回す際の重心として機能しそうなのだが……
もしや、不良品をつかまされたのか?
私は世界宿屋協会の不手際を疑ったが、そうではなかった。
灯台下暗し。分銅はすぐそばにあったのだ。
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ここだ。私の右手が掴んでいる個所がそれである。
ただの取っ手だと思っていたが、どうやらこれが『長い分銅』らしいのだ。
……つまりこの武器は、分銅を手に持って鎌を投げつける武器、ということになるが……
……本当に、そうなのか?
何かがおかしい気がする。
答えを知っている者がいるとすれば、それは、そう……ニンジャである。
私はくさりがまの真相を解き明かすため、一路エルトナ大陸へと飛んだのだった。