ある日のこと。
海底都市ルシュカに滞在する私の元に一通の手紙が届いた。差出人は冒険者として同じチームに所属しているほむ女史である。
文面には"にゃんにゃんバトン"なる奇妙な言葉と共にいくつかの質問が記されていた。どうやら何かのバトンを渡されたらしい。
だが、にゃんにゃんバトンとは一体何だろう。聞いたことのない言葉だ。
頭を悩ませていると、一匹のネコと目が合った。
「ニャ?」
猫魔道のニャルベルトはネコ目をぱちくりと瞬かせ、首をかしげた。
ウム、これだ。これに違いない。これにしよう。
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◆質問1: 名前の由来
「ニャ? 吾輩が答えるのニャ?」
そうだ。にゃんにゃんバトンだからな。そういうことに違いない。さあ答えてくれ。
「ニャー……吾輩の名前は……大昔の英雄からとったのニャ!」
ほう、それは初耳だな。どんな人物だったんだ?
「どっかの公爵の息子で、左利き専用の神の剣を振り回したり、ハルベルトで必殺衝したりして邪神と戦ったらしいのニャ」
公子という身分の割には随分勇ましいな。さすがは英雄といったところか。
「ニャー……でも最近の研究では背中に羽が生えてたとか、実は右利きだったとかいう説もあるらしいニャー」
そ、そうなのか?
「吾輩、あの英雄の見た目に関しては、昔の伝説の方がお気に入りだニャー……」
溜息と共に気泡が一つ舞い上がる。どうやら猫の世界にもいろいろあるようだ。
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◆質問2:生まれ変わったらなりたい種族
「ニャッ!? そんなの、同じ猫魔族に決まってるニャー!」
まあ、そうだとは思ったぞ。
「吾輩、誇り高き猫魔族だからニャ。何度生まれ変わっても同じだニャ」
しかし猫魔族にも色々あるだろう。他の猫魔族ならどうなんだ?
「ン~~~~。ダークペルシャの、あのシュっとした感じはちょっと憧れるニャ~」
シュっとした……?
「ベンガルクーンも割とクールでいいかもニャ。でもジャガーメイジは芋っぽいから勘弁ニャ」
私には違いが判らんのだが。ジャガーメージはそんなに芋っぽいのか?
「ニャーーッ!! もう話にならんニャーー!! あんな真っ赤な服着てるニャんて、センス最悪ニャ! 信じられんニャー!」
……それは私に対するあてつけのつもりか……?
◆質問3:今はまっていることは
「そうだニャー……水泳かニャ」
……水の領界まで連れてきておいてこんなことを言うのはなんだが……猫は泳げないんじゃあないのか?
「吾輩をただの猫と一緒にするニャ! 最近ではこんなことまでできるのニャ!」
こ、これは……
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「吾輩が最近習得した立ち泳ぎニャ」
と、いうより完全に水中を歩いているように見えるが。どうやっているんだ……?
「それは企業秘密ニャ」
◆質問4:住宅村で何してるの
「……主に留守番かニャ……」
…………。
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「来る日も来る日も家の前で待ちぼうけ……」
…………。
「いい加減飽きたのニャーーーー!!!」
ええい、だから今回は領界探索につれてきてやっただろうが!
「まだまだ足りんのニャーー!! 旅が! バトルが吾輩を呼んでいるのニャー!!」
今度魔物同盟バトルがあるそうだから、そっちを楽しみにしておけ。
「ホントだニャ!? またあのトカゲとかコウモリに出番取られニャいだろーニャ!?」
それはお前次第。腕を磨いておけ!
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と、いうわけで……
とりあえずにゃんにゃんバトンはこれでいいだろう。いまだにどういうバトンかはわからんが、これていいことにしよう。
さて、バトンの渡し先だが……
確かチームリーダーのザラターン氏が猫を飼っていた筈だ。受け取るかどうかは任すが、とりあえず手紙を送っておこう。
「ミラージュ、案内役の人、来たよ」
エルフのリルリラが私を呼んでいる。今日も今日とて、領界調査が始まる。
私は水圧で重くなったドアを開け、階段を泳ぎ降りていった。