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挑戦は続く。
その日の私が心がけたのは、テンペスト回避後に可能な限り早く、後ろに下がることだった。
全員が一点に集結するこの瞬間、レーザーの直撃を喰らってしまえば全てが水の泡だからだ。
もちろん、そうならないように安全地帯に誘導するのがベストだが、それが毎回うまくいくわけでもないのが我々の現実なのである。
ならば一刻も早くその場を離れてリスクを分散し、雫を使う。
これが功を奏したのか? いや、一人の動きで戦局が動くほど甘い戦いではない。結局、巡り合わせが良かったのだろう。
その日の我々は順調に戦いを進めていた。
偶然であれ何であれ、千載一遇の好機である。慎重に、しかし大胆に。我々は更なる攻防を繰り広げた。
ダークキングの黒ずんだ巨体が赤みを帯び、瀕死の状態であることを示す。あと一歩……!
だが敵もさる者。ただでは勝たせてくれない。ダークシャウトの直撃を喰らえば、治療役の道具使いはいないのだ。右往左往。
誰かが叫んだ。もう時間が無い! 一斉攻撃に入る。
戦士のバイキルトが切れるのが見えた。普通ならばすぐにかけ直さねばならない場面だ。だが、残り時間はあと僅か。
もし、かけ直した直後に戦士が倒されてしまったら? 蘇生し、もう一度かけ直す……その間に、時間だけが無意味に過ぎていくとしたら……
……私は剣を振るうことを選んだ。
これが正解なのかどうか、もはやわからぬ。ひょっとすると私はとんでもなく愚かな選択をして、仲間の足を引っ張っているのではないか……?
闇は私を押しつぶさんと、その体積を増す。
手ごたえも分からぬまま、私は剣を振り続ける。
やがて、何かの攻撃を喰らったのだろう。私は地を舐めていた。
隣の戦士が倒れるのが見えた。僧侶も倒れた。
たった一人、残された戦士が必死で剣を振っているのが分かった。
無情にも時間が過ぎていく。残り時間、5、4、3……
そして、次に私が目を覚ました時
私は暗黒を打ち消す者になっていた。
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写真右奥が残り3秒で闇の王を打ち倒すザラターン氏の勇姿。
手前で倒れているのが私である。
長い戦いに、ついに終止符が打たれた。
胸にこみ上げる達成感を語りたいところだが、実のところ私にはまだ実感が沸かない。
手にした称号も、何やら空っぽの器を渡されたように思える。
もちろん嬉しいことは確かだが、私の実力が闇の王に届いたわけではない。ただただ仲間たちのおかげで勝たせてもらったのだ。
この日、共に戦った仲間たち。これまでの戦いの中で手を貸してくれた友人たち。助言をくれたチームメンバー。
私の前に立ちはだかる暗黒を打ち消したのは、彼らだった。
だから、こみ上げてきたのは達成感よりも感謝だった、ただ、感謝だけだった。
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この恩は返そうと思って返せるようなものではない。だからその点は、諦めた。
私にできるのは、この体験を繋いでいくことだけである。
何かに。あるいは誰かに。
私は今、戦士としての修業を開始している。
私の前の暗黒は打ち消された。だが、まだ戦っている者もいるだろう。
今度は私が誰かの暗黒を打ち消す、その手助けができたなら。
その時こそ、器に水の満ちる時。
案外、誰にとってもそういうものかもしれない。
文字盤に刻まれた称号の文字を眺めながら、私は呟いた。
新しい戦いの、始まりである。