「ちょっと高くないか?」
私は顔をしかめた。
「出品者様のご意向ですので」
取引商は、笑顔という名のポーカーフェイスを私に向ける。
「数世代前の品だぞ」
「古い分、アンティーク的な価値が付加されまして」
渇いた風吹くギルザッドのバザー会場。残念ながら値引き交渉は実を結ばなかった。
どうやら今回のスライムレースの配当金は、新装備に吸収されそうである。
先日、ようやくのダークキングⅣ打倒を果たした私は、今度は誰かの助けとなるべく、戦士としての修業を開始していた。
と、なれば当然、必要となるのが装備である。
幸いにして戦士の最新装備、大戦鬼の鎧は流通量も多く、欲張りさえしなければ手ごろな値段で購入できる。
毒への対処はベルトとオーブ、指輪で足りるため、私は格安で装備を整えられる……はずだったのだが。
小脇に抱えた重厚な兜をまじまじと見つめ、私はため息をついた。
まったく、オシャレとは金のかかるものである。
今回、新装備のコーディネイトコンセプトとして私が目指したのは「鎧の騎士」だった。
我々魔法戦士は周知のとおり、世界中を飛び回る仕事をしている。いつ、どこで事件が起きても対処できるフットワークが身上ゆえに、装備も軽装である。
だがその一方で私は密かに、重厚な鎧に身を包む高貴な騎士の姿にも、ちょっとした憧れを抱いていた。
魔法戦士としては難しくとも、戦士としてならそんな重装備が許されるのではないか……
と、いうわけで、妖精の姿見とにらみ合うこと数日。
ついにその装備が完成した。
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胴には聖騎士の鎧。重厚さと上品さを両立する稀有な鎧である。
腰には闇騎士の鎧。デザイン的には布系も合うのだが、コンセプトが「鎧」のため、特注品のこちらを使うことにした。
足はマジェスタ。折り返しの色を鎧のサーコートとあわせ、優雅さをアピール。
腕はクリムゾン。大抵の装備に合わせられるこの小手は、今後も使うことを前提に購入しておいた。
そして頭は騎神の兜。フルフェイスだけあって重厚さが段違いだ。頭部についた羽根飾りが重厚さの中にも気品を醸し出す。
ナイトマリーとグレーリリィで色を整え、完成である。
なお、本当はネイビーダリアを使いたかったのだが予算の関係上、妥協した。
何しろ、マジェスタに10万、クリムゾンに20万。騎神の兜には50万も使ってしまったのだから……
染色等の料金を合わせると、装備自体の購入予算とほぼ同額になる。流石に予想外だった。
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とはいえ、このデザイン自体は満足している。
耳ヒレが兜の中で窮屈なのと、背後から見た姿がサマにならないことだけは気になるが、こうして愛馬ミカヅチマルの背にまたがれば、馬上槍試合に赴く騎士のようではないか。
残念ながら私には槍の心得も無ければ聖騎士としての訓練も積んでいない。
いつかパラディンとして槍を振るう日が来たら、この装備を使ってみようか。いつになるかは知らないが。
ちなみに兜を外すとこうなる。
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街を歩く時はこちらを使い、戦闘前に兜をかぶるというのも面白いかもしれない。
マイコーデが導入された今、新装備を購入したからといって無理にドレスアップをする必要はない。世はどんどん便利になっていく。
だがそれも功罪共にあり。
こうしてドレスアップをしてみると、新しい冒険への意欲が湧いてくる。この感覚はマイコーデに慣れ切った私には懐かしく、新鮮だった。
これはゴールドには代えがたいものだ。ドレスアップに費やした時間と費用は決して無駄ではない。私は確信した。
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「……それはそうと、型落ち品の値段高騰はもう少しどうにかならんかね?」
「これが市場の原理なのです、お客様」
取引商は無表情な営業スマイルで優雅に私をあしらうのだった。