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紫色の空に覆われ、黄昏色に染まった街。枯れた色合いの石畳にいくつもの足音が響き、無機質な街並みを振動させる。
住民は物珍し気にくすんだカーテンを開け、道行く人々たちを見る。響く足音。遠方より客あり。
主なきグランゼドーラ城が見下ろす城門前広場は、久方ぶりの喧噪に包まれていた。
私の名はミラージュ。ヴェリナードに仕える魔法戦士である。
女王陛下の名のもとに世界中を飛び回り、時に魔物を退治し、時に犯罪者を追う。
今回の標的は、喧噪の中心にゆらりと浮かんだ巨大な額縁。そしてその前に佇む、奇妙な存在感を放つ中年男だった。
ピンクと紫に塗り分けられた奇抜な上着と、左右違う色のタイツに体を包み、特徴的な長いひげをキリリと撫でるその姿はいかにも芸術家然とした気難しさとエキセントリックさに溢れている。
幻想画家ルネデリコ。その筋では有名な男だ。
画家として……というよりは、怪現象の主として。
一年ほど前からだったか。世界各地で謎の神隠し事件が頻発するようになった。
いや、神隠しというのは正確ではない。被害者は全員、無事に戻ってきたのだから。
彼らは口をそろえてこう言う。何もない荒野に、あるいは浜辺に、森に、奇妙な絵画が浮かんでいたと。
その絵を見つめるうちに、彼らは白昼夢を見るが如く、見知らぬ世界に案内されたのである。
ある者はそこに宝の山を見、ある者は童話の登場人物と出会い、またある者は凶悪な魔物に襲われたという。
そして夢が終わった時、彼らは街の雑踏の中を歩いている自分を発見するのだ。生まれ故郷の、自分の住む町の、あるいは一度だけ訪れた別大陸の街の中を。
不思議な出来事である。誰かが仕組んだことなのか? それとも自然現象か。原因も意図も、一切不明。
唯一の手がかりは額縁に刻まれていた、絵の作者の名前だけである。
「ミスタ・ルネデリコ……ですね?」
「いかにも、そうだが?」
私が問いかけると、氏は鷹揚に頷いた。その表情には、やや苛立った様子が感じられた。玩具で遊んでいるのを中断させられた子供のような不機嫌な顔だ。
「二、三、伺いたいのですが……」
私は身分と名を明かすと、慎重にインタビューを開始した。