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石畳を駆ける紫電の雷を、もう一つの雷がかき消す。閃光の中から踊り出たのは、勇ましく槍を構えた僧兵たちだった。
私の呪文が彼らの筋力を倍増させると、猛々しく突き出された槍の数々が巨竜の鱗を打ち抜いていく。
ルネデリコのバトルルネッサンス。天空遺跡にて繰り広げられる禍乱の竜との戦いは、クライマックスを迎えようとしていた。
今回の構成は魔法戦士の私に僧侶三名。ただし、僧侶のうち二人は槍の使い手である。彼らは回復役ではない。純然たるアタッカーとして、攻撃専念を指示してある。
ランサーとしての僧侶は、驚くほど機能的に動いてくれた。
酒場で雇った冒険者は的確に増援を狙ってくれないという難点があるが、範囲攻撃であるジゴスパークは勿論のこと、巨竜を狙っても流れ弾が陣に命中してくれる五月雨突き、狼牙突きといった技が効果的に働いてくれる。少なくとも陣を蹴散らすには十分な火力と言えた。
バイキルトが行き届いていない場合は流石に力不足……と思いきや、彼らは思わぬ手段で攻撃を試みた。眩い光が風雷を、炎をかき消す。ホーリーライトの技である。
この技を実践投入して戦果を挙げる僧侶を、私は初めて見た。兎に角、新鮮な体験であった。
勿論、攻撃面だけならば他に適役はいくらでもいる。だが彼らは当然のように全員が蘇生呪文の使い手である。攻撃専念を支持しても蘇生はきちんと行ってくれる。
そして槍使いである以上、武神の護法を極めている。これが入ればいかな禍乱の巨竜と言えど、その力を半減させられる。酒場の冒険者故、陣に向かって放ってしまう局面も多々あったが、被害を減らすという意味では無駄ではない。
更に僧侶であるからには、精霊王のローブを身にまとうことができる。炎と雷を軽減するこの装備のおかげで、彼らは並の前衛以上の耐久力を実現できる。レンジャーに足りなかった防御力。それを持っていたのは後衛の代表格たる僧侶だった。
勿論、聖者の詩も全員が身に着けているのでいざという時の建て直しも可能である。
レンジャーと違ってポルカが使えないため、魔法力の管理には不安が残るが、そこは私のマジックルーレットで補えばいい。
守りの要となるスティック持ちの僧侶には、身内のリルリラを採用した。
彼女は僧侶として一流とは言えないが、身内故に装備を自由に整えられるという利点がある。
錬金術で風耐性をつけた精霊王の装備にブレスガードのルフの盾。炎光の勾玉は持っていないので竜のお守りで代用し、炎、雷、風の三陣に備える。
これにファイアタルトを加えれば最も恐るべき爆炎の被害をかなり軽減できるだろう。勝ちどきの宝珠で魔法力を確保できるのも大きい。
とはいえ、敵も簡単には勝たせてくれない。とりわけ、禍乱の竜自らが振り下ろす爪の一撃は、物理的な防御力の低い僧侶たちにとって最も恐るべき攻撃だった。
ピンチに陥ったことも一度や二度ではなく、陣数体を残したまま戦線が壊滅、延々と蘇生を繰り返すじり貧の展開に追いやられる場面も何度かあった。
ここで救いとなったのは、召喚された陣が自らの存在を削って力を行使している、という事実である。蘇生を繰り返すうちに陣が次第に力を失い、勝手に消滅してくれる。これが無ければ、我々はとうの昔に全滅していたに違いない。
歯を食いしばって立ち上がる。私もバイキルトで援護しつつ陣の召喚に合わせて攻撃を仕掛け、隙あらばクロックチャージで僧侶たちを援護する。
どうしてもの場合には武器を持ち替え、復活の杖を使った。準備時間の長さや足を止めて盾を手放すことなどリスクは大きいが、世界樹の葉が使えない以上、これで急場をしのぐしかない。
ランサーたちが倒れた状態で陣が召喚された場合、やむなくマダンテも使う。聖水の類が使えないこの戦いでは、まさに一か八かの賭けだった。
逆巻く爆光が火炎をかき消し、黒煙の向こうから巨竜が牙をむく。
その表情からは余裕の笑みが消え、いよいよ戦いが佳境に入ったことを告げていた。