轟く雷鳴を背に、弓を握りつつ剣を掲げる。行く手を遮る魔物達が、その姿に驚き立ちすくむ。
剣と、弓。
そう、我々魔法戦士団はついに、剣と弓を同時に扱う技術を編み出した……
……というわけでは、決してない。
ずっしりと重い感触が腕に伝わる。支えている指が早くも震え始めた。
ショートソードと紹介すればそのまま信じられてしまいそうなこの肉厚な刃は、驚くべきことに「矢じり」である。これを弓につがえて放とうというのだから、かなりの無茶を要求されたものだ。
弓術は一通り修めたつもりの私だったが、この矢の扱いにはほとほと手を焼いていた。
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この難物は半月ほど前から市場に流通し始めた新設計の弓矢で、その名をサジタリウスという。
サジタリウスの弓といえば、かつて聖域に集い、女神を守護した闘士達の最終兵器の名前として有名である。
その威力は眠れる海王をたじろがせ、冥王への道を阻む"嘆きの壁"をも粉砕したのだとか。
残念ながら私の手元にあるこの弓は量産品で特別神秘的な品ではないが、この巨大な矢がまともに命中したなら嘆きの壁とはいかなくとも、鎧にひびを入れることぐらいはできそうだ。
その性質は、恐らく矢というよりは弾丸に近い。
元より弓という武器は力学・機械工学の発展と歩みを共にしてきた。その行き着く先が古代ドワチャッカ文明に見られた機械兵器の類であろうことは、想像に難くない。
現代アストルティアの弓矢も、いよいよその道を歩み始めたか……?
……とはいえその一方で、この大型弾には極めて非・機械的な要素が込められている。
それが商人組合の掲げるサジタリウス最大の特徴、「闇耐性低下」効果である。
理力を操る我々魔法戦士にとってこの効果は嬉しい。私は久しぶりに弓の買い替えを決意した。
剣の方で散財したため、こちらは安めのものを選んだつもりだったが……
「それでも130万か……」
「ニャんか金銭感覚狂ってきたニャ……」
私は猫と二人、顔を見合わせて溜息をつくのだった。
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さて、お次は試し撃ちである。強戦士の書を開き、暴君バサグランデの幻影を相手に訓練を開始する。
弓の基本技、さみだれ撃ちを放つこと100回。計400発の大型弾が発射され……嗚呼、腕が重い。
結局、効果を発揮したのは、僅か5回。
どうやら錬金術による弱体呪文と同じく、連続攻撃には1回分しか効果が発生しないらしい。
確率自体はほぼカタログ通りか。
次はフォースブレイクが効きづらいことで有名なアトラス強を相手に同じく100回。腕が痛い。
こちらはたったの1回しか効果を発揮せず。どうやら敵の耐性は無視できないらしい。
我々魔法戦士は攻撃に専念するわけにはいかない、ということも考えると、基本的に発動しないと考えた方が良さそうである。
少々残念な結果ではあったものの、今まで使っていた弓がアンフィスバエナなので、かなり強化されてことには違いない。
単純に威力の高い弓として運用することにしよう。
あとは実戦あるのみ。
幸か不幸か、この日の私には、格好の対戦相手が用意されていた。