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【胸に勇気の火を灯し】
【帽子に自由の風を受け】
【地に咲く花を慈しみ】
【たゆたう水に心を映す】
「……というアピール文をつけてみたわけだが……」
「意味がわからんニャ……」
白けた風の吹くジュレット臨海都市。猫は呆れ顔で空を見上げた。入道雲は果てしなく白い視線を地を這う者に投げ返す。
先ごろ行われた写真コンテスト、アストルティア・プリンスコンテスト。私とニャルベルトはその応募作の反省会を行っていた。
「だいたいキラキラした石の真ん中に自分を置いて、ただポーズとっただけニャんて芸が無さすぎニャ!」
「それは違うぞニャルベルト」
私は一応、否定して見せた。
「このクリスタルだが……通常の状態ではこうだ!」
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そう、通常、この水晶は白く発光したりはしない。だがそのままでは流石に絵にならないと考えた私は……
「こう……カメラの近くにもう一つ水晶を置いてだな……その光で画面全体を光らせることで、あたかもクリスタルが光っているかのように……」
「回りくどいニャ……」
「ちなみにこういう写真も撮ったんだが……」
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「この状態だと、より"剣を掲げたことでクリスタルが光った"ように見えると思うんだが……迷った末、見栄えを考えて全体が光ってる方を……」
「ま、どっちでも結果は同じニャ」
バッサリと猫は切り捨てた。
悔しいが否定はできない。入選作のそれぞれに凝らされた工夫と、その並外れた発想力は私の遥か上をいっていた。雲泥の差という奴だ。
「要するにだニャ」
ニャルベルトはピンと指を掲げた。
「お前の写真にはストーリーがニャい!」
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突き抜ける衝撃。それは、痛恨の一撃だった。
「やっぱ選ばれた写真は見てるとそれだけでお話が出来上がってる感じニャ。それに引き換え……」
深いため息。
「お前ときたら、キラキラした石の間でカッコつけてるだけニャ」
「ぐう……」
とりあえずぐうの音だけ出してみたが、反論の余地はない。
一枚の写真にストーリーを詰め込む。何かと言えば文章に頼ってしまう私には真似できない芸当である。
「来年への課題……ということにしておこう」
「諦めた方がいいと思うけどニャ……」
溜息が風に乗る。
雲は果てしなく、白かった。