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さて……ここからようやく冒頭につながる。
私は頭を悩ませていた。
別にナドラガ教団との関係についてでも、リルチェラのことでもない。
いや、リルチェラのことは多少関係があるのだが……。
エルフのリルリラが、村長夫妻の依頼でぬくぬく鳥の羽根を集めたことは先に触れた通りだが、何故、そんな仕事をわざわざ冒険者に頼んだのか。
その答えが、私の悩みの種だった。
大魔獣イーギュア。氷原の主とでも呼ぶべき大型モンスターである。彼らの存在ゆえ、村人たちは狩りに出ることもままならない状態なのだ。
普通なら、ここで冒険者が立ち上がり、討伐……となるところなのだが……
彼らの力はあまりに強大すぎた。私も小手調べとばかりに挑んでみたが、全く歯が立たなかった。
三位一体の猛攻の前に、僧侶三名を並べたところで焼け石に水。ならばと猫魔道のニャルベルトを呼び出し、ニャルプンテを試してみたが効果は無し。
全く突破口が開けぬまま、結局魔獣を避けてぬくぬく鳥を狩り続けたリルリラが依頼を達成してしまった。
目先のことだけを考えれば、これでめでたしめでたし、となるのだろうが、依然魔獣の脅威は残ったままである。
改めて討伐に赴くべきか、刺激せぬよう放置すべきか……
「それが問題だ……」
「問題だわ……」
隣で同じく悩んでいるのは、イーサの村人ウーリカ氏である。
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「往くべきか……」
「往かざるべきか……」
「イーギュア……」
「ダストン様……」
「ん?」
「ん?」
私はウーリカ氏と顔を見合わせた。
「大魔獣のことで悩んでいたのでは?」
「ダストン様のことじゃなかったの?」
互いに首をかしげる。どうやら何か勘違いがあったらしい。
「ああ……ダストン様。何も告げずに行ってしまうなんて。ねえ聞いて。ダストン様は炎の領界に行ってしまわれたの。こうなったら私も追いかけるべきかしら」
……とのことである。
ダストン氏はこの村で一時期、救世主と崇められていたドワーフの男である。
女性を夢中にさせるタイプにはとても思えなかったが……ま、蓼食う虫も好き好きというからな……
「しかし彼は子持ちだぞ」
「あら、障害がある方が燃えるじゃない」
あっけらかんと彼女は言ったものだ。
冒険者も然り。敵が強いほど闘争心を掻き立てられるのが我々である。
「とはいえ……今は時期が悪いな」
「少し様子を見ましょうか」
冷静さもまた冒険者に求められる資質の一つである。
イーギュアのことは、いつか倒すべき目標として心に秘めておこう。
「そう、今はまだ心に秘めておくの……」
ウーリカ氏も同意してくれたようだ。
「それにしても、炎の領界か……」
解放者との一件以来、エジャルナでは異種族に対する目が厳しくなりつつある。
あのダストン氏ならば心配無用だとは思うが……いずれ様子を見に行った方が良さそうだ。
手分けして情報を収集していた青の騎士団と合流し、私は一旦、この村を後にするのだった。