マストの残骸が十字架のように並ぶ。その周囲には砕け朽ちた木片とさび付いた錨。深い青に染まった船の墓場を一尾のエイが通り過ぎていった。
かつて浮遊大陸ナドラガンドに帆を掲げ、"天の海"を我が物顔に荒らしまわった海賊船も今は海底に沈み、魚たちの住みかとなって久しい。
波が揺れ海流が渦巻けば、顧みる者も無い過去の残骸に、時折、水面からの光が届く。
すると、けばけばしい色合いのクラゲたちが漂う彼方に、白く美しい女神の姿が浮かび上がる。
女神の名を、マリーヌという。
この女神像が、今回の物語の中核である。
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魔法戦士団の一員として、青の騎士団と共にナドラガ教団の動向を探っていた私は、報告のために一旦、海底都市ルシュカへと戻っていた。
そこで私を待っていたのは、ヴェリナード本国からの意外な報せだった。
王立調査団のキンナーが、我々ウェディとナドラガンドの関係を示す古い文献を発見したというのである。
大部分は朽ち果て、解読不能だったが、辛うじて読み取った内容をかいつまんで要約すると次のようになる。
ウェディの兵団、勇んで天の海へと乗り込む。
されど竜族の抵抗激しく、我らが尊きもの、彼奴等の手に落ちん。
兵士ら怒ること甚だしく、戦乱、苛烈を極める……
……どうやら、過去に竜族との間に争いがあり、その際、何か貴重なものを彼らに奪われた、ということらしい。
このことは巫女フィナにも伝えていない、と伝令の魔法戦士団員は付け加えた。今、友好関係にある彼らをいたずらに刺激するのは得策ではないという陛下のご判断だろう。
ついては私が隠密に調査を行い、真相を突き止めよ、とのことである。
かくして私はかつての天の海、ルシュカ周辺に広がるオーフィーヌ海の財宝伝説を追うこととなった。
雲をつかむような話だが、いささかの高揚感を覚えないでもない。稚気の至りと笑う者もいるだろうが、海底に眠る秘宝を追う、というシチュエーションが私の中の少年心をくすぐるのである。猫魔道のニャルベルトも同じ気持ちらしく、しきりに尻尾で海水をかき混ぜていた。
もっともエルフのリルリラはそういう話には興味が無いようで、探索には加わらず珊瑚の清掃を手伝っていた。それこそ何が面白いやらだが、本人は意外と楽しんでいたそうだ。
話を元に戻そう。
探索は困難を極めるかに見えたが、ルシュカで小さな呉服店を営むブルグ氏が海賊の末裔だという噂から糸口をつかみ、調査の手はオーフィーヌ海の西端、ガイオス古海の船の墓場へと伸びていった。
本来ならばここから当時の物品をあさり、地道な解析調査を行うところだが、今回はその全てをすっ飛ばすことのできる力強い協力者がいた。
当時を知る人々である。