グレイトドラゴンの視線を掻い潜り、翠嵐の聖塔へとたどり着いた我々を待っていたのは、冷たい言葉だった。
"用なき者は去れ。選ばれしもの以外は立ち入ることまかりならぬ"
用が無いわけではないのだが、守護者たちの態度はけんもほろろであった。
結局、回り道を余儀なくされる。我々は聖塔を後にし、別の地域を調査することとなった。
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選ばれしもの、といえば、やはりあの解放者という名で呼ばれている冒険者のことだろうか。あるいは、神の器とされる六人か。
嵐の領界はエルドナ神のお膝元。あの風乗りの少女は今、どうしているのだろう。荒れた風が吹き付ける。彼女の救出も、我々に課せられた任務の一つである。
岩山を下るソーラドーラが一瞬、背後を振り向いた。足取りも重い。ルナルドーラが寄り添った。
怪我は僧侶のリルリラが治したはずだが敗北の傷はそれで癒えるものではない。この意地っ張りなドラゴンキッズがグレイトドラゴンの位まで力を極めるには、いま少しの時間が必要となるのだろう。
私にはその成長を一足飛びに早めてやる力などは無い。共に歩み、共に戦い、共に成長するのみである。
ミカヅチマルの背にまたがり、巨岩の群れを渡り歩くと、開けた丘に辿り着く。景色を見下ろせば、宙に浮く巨大な樹海が目に入った。
いや、樹海、という表現が正確かどうか。
その陸地自体が一本の大樹であるようにも見える。大地を走る道のように見えるのは、樹自体の枝、あるいは根であろう。
あるいは、常識外れの大樹そのものが一つの陸地となって、一本の樹でありながら大森林を形成しているのではないか。
幹と枝の間には川さえ流れ、滔々と流れる水が葉を濡らしながら滝となって虚空へと落下していった。
言葉を奪われる光景だった。いずれ、あの場所も調べてみなければならないだろう。
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一方、リルリラは別の景色に興味を奪われているようだった。
裾を引かれて視線を向ければ、そこにはミニチュアのように小さく映る赤い屋根の町並みが広がっていた。
街だ。
どうやら、この領界にも人の営みは存在したらしい。
ほっと胸をなでおろす私に、盗賊が注意を促した。
双眼鏡を手にした彼は用心深く景色を観察する。街はあれども、家はあれども、人影、一つたりとも無し。
……否。影はある。ただしそのシルエットは人のものではない。腕の数が余分だ。あるいは足がなく宙に浮いている。魔物たちの徘徊だ。
さらによく見れば、屋根の多くが傷つき、あるいは崩れ落ちている。
廃墟だろうか?
我々は顔を見合わせた。
ともかく、行ってみるしかない。
ミカヅチマルの手綱を握り、私は迅雷の丘を駆け下りていった。