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街までの距離はそう離れてはいなかった。
きな臭い匂いに顔をしかめながら門をくぐると、そこで我々を待ち受けていたのは、規則正しく整えられたタイルの合間を我が物顔に生い茂る雑草たちだった。
手入れをされなくなってからどれくらい経つのだろう。
崩れ落ちたガレキの群れと街を覆う静寂は、高く築かれた城壁が何の役にも立たなかったことを物語っていた。
門の側に建てられた看板も半ば朽ちかけていたが、辛うじて刻まれた文字を読み解くことはできた。
"ムスト"
だがその名を呼ぶ者はもはやいない。
今、この町に住むのは寂しく吹き抜ける風と砂埃、そして人々の築き上げた石畳を踏み荒す魔物たちだけなのだから。
朽ち果てた廃墟を前に、我々はしばし物思いにふけった。からからと空回りする風車が空しく空をかき混ぜていた。
やがて盗賊が、丘から見下ろした外観から大まかな見取り図を作り、座標を定める。
現在位置はポイントC5。我々は羊皮紙に目印を刻みながら街の探索を開始した。
ポイントD5
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崩れ落ちた街の中で、この建物だけは大きな欠損も無くその姿をとどめていた。
棚やテーブルにはフラスコや小瓶、秤が散乱し、本棚には古めかしい本が並んでいる。恐らくこの家は錬金術師の工房で、事故に備えて一際頑丈なつくりになっていたのだろう。
我々は本棚の本を数冊、手に取ってみたが、その殆どは難解な文字の羅列としか映らなかった。
唯一、本の間に挟まっていた小さなメモだけは我々にも理解できた。
"街を覆う風に毒素があることが判明した。不要の外出は控えるべし。特に小さな子供からは目を離さぬように!"
どうやら他の領界と同様、このムストにも災厄は訪れたらしい。
だが、毒の風で街が瓦礫に変わるだろうか?
ムストの街が廃墟と化した原因を探るには、もう少し探索を続ける必要がありそうだ。
ポイントD4
高台から廃墟の街を一望すると、二本脚の魔物達が広場や階段を我が物顔に闊歩する光景が広がっていた。
いずれも武具を身に着け、組織だった行動をとっている。
どうやら、この街を襲ったのはただの魔獣の群れというわけではなさそうだ。
ポイントC7
街の外周に沿って探索を進めると、町の住民が残したものだろうか、いくつかの宝箱を発見した。
へそくり代わりのメダルや宝石に混ざって、霊薬や召喚の札が散りばめられているのは、例の錬金工房と関係しているのだろうか。
私は手掛かりの一部としてそれらを接収し、袋の中に忍ばせた。
ポイントE6
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人々の憩いの場所であった中央広場も、今や魔物たちの根城である。
回り続ける風車が、今は変わってしまった景色を見下ろし続ける。
子供たちの軽やかな駆け足を受け止めていた石畳を、今、無慈悲に踏み荒らすのは、巨大な魔獣の鉤爪だった。
どうやら彼らは我々の侵入に気づいたらしい。
そして不遜にも自分のテリトリーを踏み荒す侵入者を排除しようと、手にした得物を振り上げた。