魔物達を退け、我々は街の探索を続けた。
ポイントF4
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中央広場の東側には、珍しく形をとどめた三階建ての家があった。
固く閉ざされた鍵穴に盗賊が針金を一本差し込むと、糸をほどくようにすりと留め金が開く。
警戒しつつ扉を開くと、恐らく宿屋か何かなのだろう、小奇麗なカウンターが我々を出迎えた。
かつては人相の良い受付が旅人たちを出迎えていたに違いない。今、我々を出迎えるのは静寂と、カウンターに放置され、隙間風にページを弄ばれる手帳だけだった。
手帳を手に取る。どうやら誰かの日誌らしい。
我々は期待に満ちた表情で互いに顔を見合わせ、頷いた。住民の日記。この街に何が起きたのか、それを知る何よりの手がかりではないか。
ページをめくる。果たしてそこには我々の求めていた、この街の辿った運命を綴る物語が記されていた。
街を覆う毒の風、業風に悩まされる住民の前に、ある時、立て続けに二人の旅人が現れた。物語は、そんな平凡な一幕から始まった。
一人は錬金術師、いま一人は、預言者を名乗る男。
はじめ、胡散臭い余所者と警戒心を抱いていた住民たちだったが、予言者の予知と錬金術師の技術により街は救われ、彼らは一転、救世主と崇められるようになる。
彼らは言った。ナドラガ教団は危険な存在だと。
そして彼らに対抗すべく、組織を作った。誰言うとなく、それは疾風の騎士団と呼ばれるようになった。
だがナドラガは竜族の神。それを崇める教団と敵対することに、疑問を抱く住民も皆無ではなかったようだ。
そこからしばらく日付が空き、次の日誌は予言者が魔物の襲撃を予知したところから始まっていた。
予言者は騎士団を通じて何らかの対策を住民に伝えたようだ。
それが功を奏したのか、あるいは無意味に終わったのか。
街を徘徊する魔物達を見る限り、どうやら全面的な成功とは行かなかったようだ。
……一気に読み上げ、私は天を見上げた。
あまりに多くの情報が脳を行きかい、整理には時間が必要だった。
何より意外だったのは、その予言者の名前である。
私はその名前を知っていた。
エジャルナの空を覆う黒渦が頭の中によみがえる。
そして錬金術師。……煉獄鳥の影が記憶の中で羽ばたいた。
疾風の騎士団。墓碑銘に刻まれていた疾風の騎士とは彼らのことだろうか? では竜の翼とは?
一方、盗賊は日誌の最後のページと長いこと睨み合っていた。表情を窺うと、彼は無言で記された日付を指さした。そう遠い過去ではない。
だが襲われた街には破壊の跡こそあれ、殺戮の痕跡……血痕や死骸の類は皆無だった。これは何を意味するのか。
住民は騎士団の指揮のもと、街を捨ててどこかに逃れたのではないか。
それが彼の結論だった。
ならば、どこへ……
その答えを知るには、更なる探索が必要である。
我々は手帳の内容を写し取ると、三階建ての家……日誌によれば町長の家らしい……を後にした。