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毒の大滝は私の心を打ちのめしたが、ひらけた空は、たとえその上に吹く風が毒の風であろうとも私の気持ちを軽くしてくれた。
しかも坑道の外は、我々が探索していた高原を天ツ風の原の上層とするなら下層というべき位置関係にあり、軽く見上げればかつて歩いた道がそこにあるのが分かった。
洞窟の恐ろしさは潜んでいる魔物でも隠された罠でもなく、自分が今、どこにいるかわからないという不安感にこそある。そこから解き放たれた安堵感は冒険者にしか味わえないもののひとつである。
そしてもう一つ。
離れ離れになっていた仲間の無事な姿を見た時の安堵感は、それを数倍したほどのものである。
上層からこちらを見つけ、手を振るリルリラと、その傍らのルナルドーラ。尊大に構えたミカヅチマルの馬体と、双眼鏡をのぞいた盗賊の姿が私の口元に久しぶりの笑みを浮かばせた。
ルナルドーラが今一度、飛竜の姿となって我々の傍らに駆け付け、ソーラドーラは薄く瞳を開けた。
リルリラは嬉しそうに小言を言いながら、私とソーラドーラの生傷に魔法の癒しを施し始めた。
結局、白竜とその背に乗ったものたちを食い止めることはできなかった。彼らは今ごろナドラガの祠に到着した頃だろうか。
風乗りの少女のことも気がかりだ。
だがさすがにリルリラを初め、仲間達は一時撤退を主張した。冒険とはあえて危険を冒すことだが、同時に万全を期すべし。不測の事態に直面してなおも当初の計画を強行するのは、優れた冒険者のやることではない。
私はその意見に頷きながらもあえて、もう一歩だけ探索を進めることを提案した。
探索領域は、この鉱山地帯である。
一つだけ、気になっていたことがある。
墜落し、気を失った私の目を覚ましてくれた、あの金属音のことだ。
あれが私の妄想でないとしたら、誰かがあの音を鳴らしていたはずではないか。
誰かが、この打ち捨てられた鉱山で今もナドラダイト鉱石の採掘を行っている。
地図を広げれば、この坑道はムストの街のすぐそばである。
消えた住民。教会に出入りしていた人物。
謎の答えは、案外すぐそこまで迫っているのではないか?
盗賊が膝を打って頷いた。リルリラはまだ渋っていたが、無理をしないという条件で同行を決めた。ミカヅチマルは彼女の言うことには逆らわない。ルナルドーラやソーラドーラも同じである。
こうして我々は探索を再開した。