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坑道を支える木造の柱は毒の大気を浴びてなお、その役目を必死に果たしていた。
我々は暗い道にライトフォースの灯りをともし、細長い洞窟を慎重に進んでいった。
朽ちかけた枕木の上を走るひしゃげたレールは、もはや運搬の役には立ちそうにないが、道しるべとしては十分に有用な道具だった。
時折、盗賊がそのレールに耳を当てて音を辿る。我々の耳にはとても判別できないが、彼は確信をもってこう言った。
何かを打ち付ける音がこの先から聞こえる、と。
それが私の聞いた採掘音と同じものであれば、謎はすぐそこまで迫っているに違いない。
ますます慎重に、ますます大胆に、我々は探索を進めた。
奥へと進む。
採掘音は、もはや聞き耳を立てるまでもなくはっきりと聞こえていた。
曲がり角に差し掛かる。前に進もうとはやる私を盗賊が無言で制した。曲がり角の向こうにそっと目をやると、そこには細かく動くツルハシが見えた。
ついに謎の採掘者と対面か?
……だが、期待と共に奥を覗き込んだ次の瞬間、私の顔は失意の色に染まっていた。
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そこにいたのはツルハシを手にしたモグラ型の魔物、プラントマトックだった。
彼らは猿や犬猫以上には知的な生物で、鉱山から鉱物を持ち帰っては武器や道具として利用する習性をもつ。
ムストの住民が開拓した坑道を、後から住み着いた魔物達が有効活用している。ただそれだけのことだったのだろうか?
モグラたちはぺたぺたと小さな足音を鳴らしながら枕木を踏み越える。緊張感のないその顔を見ていると、きつく引き締まっていた探索者達の表情も自然と緩んでいった。
肩をすくめ苦笑した私を、盗賊はなおも緊張感に溢れる顔で制した。そして聞き耳を立てつづける。
よく見れば、プラントマトックのご一行は既に採掘を終え、帰途についたところだった。
採掘音はまだ続いている。
モグラたちのお仲間か、それとも……
一縷の望みをかけて、我々は音のする方向へと歩を進めた。
その光景は唐突に我々の前に飛び込んできた。
一人の男が岩肌にツルハシを打ち付け、輝く鉱物を掘り起こしていた。
竜族ではない。一見して、冒険者と分かる風貌だった。
男は収穫に満足したのか、麻袋にそれを放り込み、汗をぬぐった。
声をかけるべきかどうか私は迷ったが、探索の主役を務める盗賊にとって尾行は習性に等しい。自然と男の後を追う形となった。
男は坑道の奥の分かれ道を左に曲がった。少し待ってから我々も後に続く。
その先は、行き止まりだった。
男の姿はもう、どこにもない。
彼が幽霊の類で、煙になって消えたのだとしたら一応の説明はつく。
盗賊はその説明をとても合理的だと褒めてくれたが、間髪入れず地面と壁を調べ始めた。程なくして、巧妙に偽装された隠し階段が姿を現した。
我々はついに、謎の核心に辿り着いたようである。
だが、姿を現したものはそれだけではなかった。
どうやら盗賊は、隠されたものの探索に力を注ぎすぎたようだ。そして我々は彼に比べれば隠密の素人だった。
暗い坑道に影が踊る。気付けは我々は槍を持った数人の男に取り囲まれていた。
そして彼らの頭にはいずれも、二本の黒い角が生えていた。