おそらくはこの領界の住民であろう兵士たちに対し、敵意が無いことを示すため、私は無抵抗で両手を上げた。
だが兵士たちはなおも武器を納めようとはしなかった。そして我々の話を聞こうともせず、威圧的に囲みを狭め始めた。
私は気が短い方ではないつもりだが、彼らの猜疑心の強さにはさすがに辟易とさせられた。
毒の溢れる坑道を辿って秘密の出入り口に辿り着いた怪しい一行が、異種族三名と魔物三匹の混成パーティだったからといって、何を疑う必要があるというのか。
ミカヅチマルが不機嫌そうに鼻息を鳴らし、二匹のドラゴンキッズが低く威嚇の声を上げた。
どうやらそれが、好戦的な竜族の若者たちを刺激してしまったらしい。
男たちはいっせいに得物を振り上げた。
坑道の闇に銀光が閃く。
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からんと軽い音がした。
男たちが違和感を覚え、手元を確かめた時、私の剣と盗賊の短剣は再び鞘に納まっていた。
穂先を落とされ、ただの棒きれとなった槍を愕然と見つめ、男たちは一歩下がった。より強まった警戒と、恐怖の色がその表情に上乗せされていた。
どうやら危機は脱したが、状況がよくなったとは言えないらしい。
その時、どこかぶっきらぼうな声が坑道に響いた。
「よしな。お前らじゃ相手にならねえ」
その声の持ち主は、兵士たちをかき分けて我々の前に現れた。
体格は私と同じくらいだろう。奇妙なことに、顔を覆面で覆っている。それも、ありあわせの布を巻いただけという簡素なものである。
偽装にしてはお粗末だった。
不恰好な覆面に向けて、私は軽く肩をすくめた。
「お前なら相手になるというのか?」
好戦的な台詞に、盗賊はギョっとしたようだった。
「それも悪くねえな」
覆面の下で男が笑ったのが分かった。
互いに剣を抜く。私はリルリラたちを下がらせ、男もまた兵士らを下がらせた。
沈黙。坑道に風が吹き抜けた。
両手持ちの大ぶりな剣を地に這わせて、男は大地を蹴った。三日月を描いて逆袈裟に切り上げた刃に、私は自らの剣を合わせ、それを軸に身を翻す。続けて横薙ぎの一閃!
男は姿勢を低くしてそれをかわすと、そのまま荒々しい体当たりを敢行した。衝撃が私の身体を襲う。あえて耐えようとせず、私は自ら後方に吹っ飛んだ。姿勢を崩しながらもダメージを受け流す。
だが男はそれすらも織り込み済みだったのか、あるいは野性的な勘か。間髪入れず間合いを詰める。態勢を立て直す時間を与えない、攻撃的な組み立てだ。振り下ろしの斬撃が続く。
私は地を蹴ると空中に逃れた。だがこれ以上の逃げ場はない。死に体と言える。
ゆえに、選択肢は一つ。攻撃あるのみ。
両手に持ち替えた剣が空中で強い光を放つ。
男もまた防御など考えてはいなかった。振り下ろした剣をそのまま地面に突き刺し、力を籠める。痺れるような電撃が剣を伝った。
二つの閃光が交差する。
坑道が白く染まった。
着地。
男の覆面が焼け落ちた。その内側から、青白い耳ヒレが現れる。
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「腕はなまってねえみてえだな」
ヒューザは不敵な笑みを浮かべた。
「お互いにな」
私は痺れた手をかばいつつ、剣を鞘に納めた。
腰を抜かした兵士達と、呆れ顔のリルリラ達が、共に盛大な溜息を洩らした。