「ともかく、これからどうするか考えねえとな」
ヒューザの言葉に勇者姫は頷いた。
部屋の奥にはテンガロンハットの副団長、少し離れてヒューザと勇者姫。プクリポの王子がそこに加わる。
そして解放者の名で呼ばれた冒険者が最後に入場すると、未だ黙考する副団長の肩にポンと手を置いた。
私の口から、思わず息が漏れた。
そうそうたる顔ぶれである。
だが、この場に集うのは彼らばかりはない。また、避難した住民や予言者と錬金術師が集めた"疾風の騎士団"の面々だけでもない。
会議室の外には、じめじめとした地下の空気を吹き飛ばさんばかりの熱気があふれていた。

ある者は"解放者"に付き従い、またあるものは我々と同じく独自のルートでここに辿り着いた冒険者たち。
彼らもまたレジスタンスのアジトを拠点とし、それぞれの戦いに身を投じていたのである。
竜族との親交を深める者、互いに武勲を誇り合い、武器を披露し合う者。あるいは黙々と剣を磨く者。中には武器の素材が足りないと言って、ナドラダイト鉱山に採掘に赴く者もいる。我々が遭遇した採掘者もそうした一人だ。
種々雑多な冒険者達の姿は如何にも不揃いで、騎士団なる看板にはとても似つかわしくないものだったが、その全てが何らかの術を極めた達人に違いない。
ヴェリナードから来た魔法戦士の私も、そうした光景の一部というわけだ。
世界中から集った冒険者。勇者と、それに匹敵する"神の器"たち。そして解放者に、黒渦の男。
これだけの人材が揃えば、ナドラガ教団など恐るるに足らないのではいか?
無言の熱気がレジスタンスのアジトを包んでいた。
からからと風車の回る音が聞こえてくる。頭上を見上げ、流石に私は苦笑した。
あの時、滅びの象徴として見上げていた風車の真下には、確かな熱と、人々の息遣いが隠されていたのである。
「何をニヤついてんだ?」
ヒューザがからかうように声をかけてきた。
「いや……もっと早く、こういう風になっていれば、とな」
私の実感である。
ナドラガンドの旅は長かった。
もう一時代、いや二時代も早くこんな光景が見られたなら、その長い旅路も違って見えただろう。
もっと彩りに溢れた、もっと豊かなものになっていたのではないか。
「ないものねだり、って奴だな」
「そう思う」
私は肯定した。
それでもなお、もし……と考えてしまうほど、この光景は心地よかった。
やがて、黒渦の男が長い沈黙を破って次なる方策を語り始めた。
勇者が、王子が、冒険者たちがその言葉に耳を傾ける。
作戦会議が始まった。