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少女は言った。
「どうしてミラージュはヒューザさんに負けたくないの?」
と。
改めて問われて、私は戸惑った。何故、と聞かれても……昔から競い合ってきた相手である。
「恥ずかしながら……特に理由はありませんな」
負けたくないものは負けたくないのだ。それだけの子供っぽい感情論だった。
少々気恥しくなって目をそらすと、勇者姫はくすくすと笑っていた。
「滑稽に思われるでしょうな」
「いいえ、素敵だと思うわ」
少女は剣を鞘に納めた。
「私にも負けられない相手がいるの」
そして少女は、遠くを……闇の向こうを見つめる瞳で語り始めた。
「あの人は気を抜くと、いつでも私のことを笑いに来るわ。絶対に負けたくないし、負けられない理由がある」
その横顔に、同じ顔を持つ少女の面影が重なる。
「でもね……。理由も無く競い合える相手だって、欲しいのよ」
彼女は静かに瞳を閉じた。
勇者の孤独、か。
「盟友殿はどうです?」
「えっ?」
少女は目を丸くした。そして何故かせわしなく目をそらす。
「あの人は私にとっては……そう……どうかしら、ね」
勇者にしてはあいまいな言葉である。
そういえば盟友殿と再会した彼女は妙にしおらしい様子だった。
彼女にとっては競い合う相手ではなく頼るべき相手、といったところだろうか。
勇者らしくない、と言えばそうかもれないが、まだあどけなさを残す少女の身に完璧な勇者像を求めるのも酷な話だろう。
「と、とにかく」
コホンと咳払い。
「誰かを目標にして頑張るのはいいことだと思うわ」
少々強引に、勇者はまとめた。
「今ごろはあの子も、頑張ってるでしょうね」
少女は空を見上げる。
思いは一路、アラハギーロへ。
ドラゴンキッズのソーラドーラは、また別の戦いに身を投じていた。