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リルリラが神鹿伝説を追ってエルトナ大陸に赴き、私が勇者姫と共に修業に明け暮れていたころ、ドラゴンキッズのソーラドーラもまた、別の戦いを繰り広げていた。
舞台はレンダーシア大陸北東部、渇いた風に砂埃舞うアラハギーロ王国。
王宮と見まがうような豪奢かつ堅牢なつくりのコロシアムは、魔物使いとモンスター達の檜舞台である。
アラハギーロ名物、モンスターバトルロード。モンスター同士が技を競う格闘場だ。
「ま、吾輩にとっては庭みたいなもんだけどニャ」
と猫背をおして胸を張るのは猫魔道のニャルベルト。
闘技大会に関する一切を、私はこの猫に任せている。
最近は少々さぼりがちのようだが……
「そんなこと無いニャ! ちゃんとサポート活動でコイン稼いでるニャ!」
と、いうことにしておこう。
ともあれ……
嵐の領界で金鱗の巨竜グレイトドラゴン、そしてあの白竜との戦いに敗れたソーラドーラは、ここで再起をはかることとなった。
自分より強い者と出会ったとき、勝利への道筋は大きく分けて二つある。
一つは自分を鍛え、相手より強くなること。
もう一つは弱者のままで勝つための戦術を探すこと。
ドラゴンキッズは思案顔のままトリナオ草とヤリナオ草を頬張った。
ドラゴンという種族には無限の可能性がある。
爪を使った接近戦一筋の肉体派、口から吐き出す火炎の息を極めた者、蘇生呪文を習得して器用に立ち回るバランサータイプ。
これまでのソーラドーラは、しいて言えばバランス型に分類されるタイプだった。
だが今回、彼が選んだのは、もっとも単純で分かりやすい強さだった。
爪を使った接近戦を極め、力で敵を圧倒する。
強者への道である。
弱者のままではいられない。あのグレイトドラゴンよりも、白竜よりも強くなる。意地っ張りな彼のこと、きっとそんな発想だったに違いない。
私は自分の修業があるため、たまに顔を出す程度だったが、彼らの戦いは順調だったらしい。
竜の肉体はソラの意思によく応え、小さな爪は風を裂くような連撃で敵を蹴散らしていく。
その活躍は管理人のカレヴァン氏、そしてチャンプ教官の目に留まり、ついに昇格試験を受けることになった。
そしてその一戦目こそが、ソーラドーラにとっては因縁の対決となった。
竜の大陸ナドラガンドより招聘された精鋭ドラゴン分隊。その一角に、あの金鱗の巨竜もいたのである。