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フォースマエストロ

ミラージュ

[ミラージュ]

キャラID
: DX235-898
種 族
: ウェディ
性 別
: 男
職 業
: 魔法戦士
レベル
: 133

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ミラージュの冒険日誌

2017-07-03 22:00:18.0 テーマ:その他

流れよ我が涙、と神官は言った(5)~なりきり冒険日誌【ver3.5のネタバレ注意】

 沈黙がテーブルを支配する。私もエステラ嬢も、しばらく口がきけなかった。
 坑道を通る風の音が、地下空洞にまで響きわたった。嵐の領界にしては、穏やかな風だ。
 私は神々の慈悲深さについては常々疑問を抱いていたが、少なくともエルドナ神は限りなく寛大な女神らしい。
 エルフはまたも茶をすする。圧倒されたように竜族の神官……あるいは元神官は彼女をじっと見つめていた。
 そういえば、彼女はかつてリルリラに、エルドナ教の教義について尋ねたことがあった。
 その時のリルリラの答えは「みんなで頑張って幸せになろう」といういい加減なものだった。
 エステラ嬢も、それを思い出したのだろう。彼女がそのことについて触れると、リルリラは「ああ」と舌をだした。

「経典にかいてあること、回りくどくてわかりづらいから私流に書き直しちゃった」

 もはや何も言うまい。エルドナ神の限りない寛大さに感謝するのみである。
 一方、女神官の瞳は深い色に染まっていた。
 考えてみれば、ナドラガ教の教義はどうなのか。苦しむ竜族を救え、という教義は確かに立派に見えるが、あまりにあの男の目的にかないすぎている。
 そもそもナドラガ教団自体、オルストフ老が一代で築き上げた教団に過ぎないのだ。彼が白か黒かはともかくとして、最初から目的ありきの宗教であったことは間違いない。
 聖典さえも、誰かが書きなおした教えにすぎないのか。
 それを崇め、奉ずることに本当に意味はあるのか? 
 あらゆる教えに付きまとう根本的な問題に対する答えの一つが、リルリラだ。あまりに乱暴でとても他人には勧められない答えだが。
 女神官は静かに尋ねた。

「僧侶になったこと、後悔してますか?」
「……どうだろ」

 もぐもぐとお茶菓子を頬張りながらリルリラは答えた。

「いいこともあったし、嫌なこともあったし……」

 ごくりと飲み込むと、彼女は何かに気づいたように、茶目っ気たっぷりに笑った。

「でも、ミラージュの旅にくっついてきて、エステラさんに会えたのは、私が僧侶だったおかげかな」

 確かに、彼女が僧侶でなければ私とコンビを組むこともなかっただろう。ケ・セラ・セラ。なるようになるか。
 エステラ嬢は静かに微笑むと、胸に手を当てたままゆっくりと瞳を閉じた。
 問いかけているのだ。自分にとって、神とは、教義とは何なのか、と。
 その問いに答えるのは、少なくとも神ではあるまい。

 他の誰にとってもそうであるように、彼女には時間が必要だった。己自身と向き合う時間が。
 だが今、彼女と彼女自身の間には分厚い防壁が立ちふさがっていた。大聖堂を覆う光の壁が。
 休息の時間は永遠ではない。湯呑に残った最後の一摘を飲み干した時、彼女には再び、あの壁と向き合わねばならない時間が訪れるのである。
 彼女は名残を惜しむように湯呑を軽く回すと、それを喉の奥に流し込んだ。

「はい、おかわりどうぞ!」

 すぐさまリルリラがポットを手にした。女神官が目を丸くする。悪戯っぽくエルフの僧侶が笑う。そして、エステラも笑った。

「焦ってもいいことないって」

 再び熱い茶が注がれる。頑なな心を何度でも溶かすように。

「無理しちゃだめだよ。いつでも手を貸すからね」

 女神官の黒い角が小刻みに震えるのを、私はそっと見つめていた。

 やがて旅立ちの時がやってきた。女神官は再び凛とした空気を纏い、今は敵地となった故郷へと赴く。
 心配でないといえば嘘になる。だが今の彼女は、ここへやってきた時の彼女ではない。固い決意と共に、柔軟で粘り強い力がその胸に満ちているのが分かった。

「エステラさん」

 見送るリルリラが再びティーポットを掲げた。

「またお茶しようね」

 エステラ嬢は目を細めて笑みを浮かべ、静かに頷いた。

「ええ、必ず」  そして彼女は去っていった。
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