【注:ver3.5後期のストーリーネタバレを含みます】
第六話「炎の都エジャルナ」後編
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「まだ行けるか!?」
私は弓を四連射し敵を牽制しつつ、トビアスの隣に回り込んだ。
「知れたこと!」
応えながらもトビアスの口から血が溢れ出した。限界は近い。
「上に立つ者が真っ先に死んでどうする」
「上に立つ、か」
トビアスは自嘲的に首を振った。
「私は人の上に立つ器ではない」
乱戦の雄叫びが我々の頭上を通り越していった。戦いはさらに激しさを増していく。
「もしエステラがここにいたなら、その意志で皆を立ち上がらせただろう。解放者殿がここにいたなら、その力で敵を打ち払っただろう」
杖を持つ拳が震える。体を支える脚が震える。
「私にはそのどちらもできん。無能の極みだ! 自分の情けなさに反吐が出る!」
噴き出した汗が目じりにたまり、頬を流れていった。重く、熱いものが青年の胸から吐き出されていった。
「だがな、魔法戦士。見ろ!」
トビアスは杖を前に向けた。若き神官の目が燃え盛る炎を映す。エジャルナの炎を。
「我らが誇るべき竜族は今、自らの意志で立ち、自らの力で戦おうとしている。こんなに嬉しいことがあるか!」
トビアスは笑った。痛みと熱、血と汗と涙の中で誇らしく胸を張った。
「何もできん無様な私だが、立ち上がろうとする者の踏み台ぐらいにはなれるつもりだ」
杖が大地を打ち鳴らした。再び仁王立ちの態勢となる。
「これまで恥をさらし続けた。今更恥も外聞もない。無様を貫くのみ! 笑わば笑え、魔法戦士!」
「笑うさ!」
私はその言葉通りの表情を顔に浮かべ、彼の背中を支えた。
「誇り高き男と肩並べて戦うは部門の誉れ。大いに笑うとも!」
彼は人の上に立つのではなく、下から人を支える道を選んだのだ。
鼻持ちならないエリート神官の面影は、もうどこにもない。
そして、いつか彼も知る日が来るだろう。真の指導者の立つべき場所は、まさにそこなのだと。
だからこそ、ここで死なせるわけにはいかなかった。
市民の戦いを援護し、彼らのダメージを可能な限り減らす。それがトビアスを救うことでもある。
援護の矢が市民の頭上を走る。
戦乱の炎が、街を焦がした。