【注:ver3.5後期のストーリーネタバレを含みます】
第七話「ナドラガンドの決戦」前編
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戦局は我が方へと傾きつつあった。
数に勝る市民軍が敵を囲い込み、各個撃破の態勢に入る。原理主義派は徐々に追い詰められていった。
ことここに至り、ロマニとドマノも切り札を出さざるを得なかった。
彼らは互いに頷き合うと、乱戦の中、厳かな仕草で天に祈りをささげた。
その隙を狙い、突き出されたいくつもの槍が、彼らの肌に弾かれ、折れる。まるで鋼鉄を打ったかのように。
戸惑う民兵の目の前で、二人の竜族は瞳を赤く輝かせ、血の匂いがするような笑みを浮かべた。狂気の形相。それが膨れ上がる。
耳をつんざく爆音が立て続けに二つ、轟いた。
黒煙が立ち込める。その奥から、低いうなり声が響く。
そして黒い霧が晴れた時、二頭の巨大な竜の瞳が、我々を見下ろしていたのである。
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巨大な竜が、街を見下ろしていた。それがつい先ほどまで人の形をしていたロマニとドマノその人であることは明らかである。
「竜化の術か!」
竜化、あるいはドラゴラム。竜族の中でも特に才能に恵まれた者だけが使うことのできる、禁断の秘術だ。
民衆が後ずさりする。彼ら竜族にとって竜は神聖な生き物だ。竜に化身することはすなわち……竜神ナドラガに近づくことを意味する。
赤い瞳が獰猛な光を宿す。神に近い存在となった二人の狂信者が、怒りに震える。
そして巨大な鉤爪を市民へ……否、エジャルナの街へとそれを振り下ろした。……鉄槌!
爆音と共にエジャルナの古い町並みが崩れ、瓦礫が市民へと押し寄せた。一振りするごとに、家が一つ潰れ、人々が逃げ惑う。暴威の風が吹き荒れた。
続いて灼熱の炎が石畳を焼き焦がす。暴竜の口から吐き出される炎は、もはや質量を持った熱塊となって石床を溶かしていく。市民軍は総崩れとなった。
「持ちこたえろーーーッ!!」
辛うじて踏みとどまるのは雇われた冒険者と教団兵、そして我々魔法戦士団だ。剣を、盾を手にとり壁となり、竜の侵攻を押しとどめる。
だが、ひと呼吸、ふた呼吸……徐々に押し負ける。押し合いは明らかに敵に分があった。無念の叫びと共に壁が崩れ、必死の抵抗を、巨竜の脚が踏み散らす。
悲鳴を上げながら逃げ惑う民衆の中心で、ただ立ち続けるのはトビアスだった。剣を振るうでもなく、呪文を唱えるでもなく、ただそこに立ち続けた。歯を食いしばり続けた。
竜が、街を蹂躙し始めた。