【注:ver3.5後期のストーリーネタバレを含みます】
第七話「ナドラガンドの決戦」後編
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二匹の竜は苦悶に喘ぎ、巨体を揺らしながら後退する。市民の群れがそれを追い詰める。
やがて川べりへと追い詰められた竜たちは、怒涛のように押し寄せる炎の前に体をのけぞらせた。
「落とせ!」「落としちまえ!!」
市民の群れが詰めかける。竜達は辛うじて踏みとどまっていた。前には怒りに燃える市民の炎、そして背後には、灼熱の大河。
彼ら自身が地獄の業火へと変貌させた大河の流れが、今、彼らを飲み込もうとしていた。
市民が槍を突き立てる。防御機能を失った肉体で、それでも暴竜は耐え続ける。吠え続ける。決して倒れぬ。竜の肉体は神々しいまでの強大さをもって民衆を睥睨した。
だが、みしりと鈍い音。
彼ら自身の肉体が永遠不滅だとしても、その足場まで同じではなかった。
巨体を支える足場が徐々に崩れていく。瓦礫が業火の濁流へと吸い込まれていく。
「クォオォォォ……!!」
巨竜は足場を探す。足場なら目の前にあった。ただし先客がいる。蠢く竜族の群れが。
竜眼に残忍な光が灯る。躊躇なくそれを踏みつぶそうと竜達は脚を上げた。
「ーーーーー!!!」
声にならない叫びが上がった。
竜族は逃げない。槍を掲げた。剣を掲げた。己の居場所を守ろうと、巨大なるものに向かって拳を振り上げた。
竜が脚を振り下ろす。
衝突……!!
そしてその瞬間、重圧が足場を襲った。
激しい破裂音。そして激震!
「クゥア……!!!」
空を掻くような態勢のまま、二つの巨体が宙に放り出された。彼らの足場は、竜族の街は、竜達を支えることを拒否したかのように崩壊した。
轟音。震動が街を襲う。
竜の巨体が大河に吸い込まれ、水飛沫のような激しい火の粉が吹きあがった。
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絶叫が響く。
流れる炎が竜を焼く。邪悪なる意志の力により業炎の大河となった川が、彼ら自身の身を焦がすのだ。
やがてその叫びも炎の中へと溶け込み、竜は赤熱の地獄へと消えていった。
一瞬の静寂。誰もが顔を見合わせた。
そして……
「ーーーーー!!!!」
喝采が湧く。勝利の雄叫びが上がる。彼らの中に、先ほどまでとは別の炎が燃え上がる。
魔法戦士団も冒険者達も、座り込んで安堵の息をはいた。互いに手を叩き合い、健闘をたたえる。
トビアスは何も言わず、ただ立ち尽くしていた。
夜が明けようとしていた。