【注:ver3.5後期のストーリーネタバレを含みます】
第八話「邪悪なるもの」中編
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私がそれを発見できたのは、ほんの偶然に過ぎなかった。
石畳に、寄り添うように刻まれた二人分の足跡。その先に、男が二人。瓦礫の影に身を潜め、辺りを窺いながら弱々しく歩いている。
焼け爛れた肌は痛々しく変色し、髪もちりちりに焼け焦げていたが、それでも彼らの特徴を損なうほどではなかった。何より、今この時、人目を忍んで歩く竜族の二人組が他にいるだろうか。
私は剣の柄に手をかけつつ、背後から声をかけた。
「動乱の首謀者、ロマニとドマノだな!?」
二人はぴくりと震えた。が、もはや抵抗するだけの力も残っていないのだろう。互いに顔を見合わせると観念したように口元を緩ませ、身体を弛緩させた。
ゆっくりと振り向く。まさしくロマニとドマノである。両手を上げ、無抵抗を示す。
どうやら荒事にはならずに済みそうだ。私はやや警戒を緩めた。
……が、しかし。
「………!!」
彼らは私の顔を……いや、私の顔についた耳ヒレを見るや否や、一度上げた両手をこわばらせ、顔色を変えた。
「ドマノ……!」
「うむ……!」
二人の竜族は再び顔を見合わせると、互いに頷いた。そしてどこに隠していたというのか、凄まじい殺気と瘴気を放ち、徹底抗戦の構えをとった。
「ム……!!」
私も剣を握る拳に力を込める。再び緊張が走る。
灰の降る街に、呼吸音だけが流れた。激しく、強く。
血走った眼が、硬く握られた拳が、二人の竜族の断固たる意志を示していた。
一体何が、半ば観念していた彼らをこうも頑なにさせたというのだろうか?
居合の姿勢を保ちつつ、私は彼らの表情を覗き込んだ。
そしてその眼光が私をまっすぐに射返した時、唐突に、私は痺れたような感覚に撃たれた。
一つの仮説が脳裏をよぎる。それは、不揃いなパズルの隙間を埋める最適のピースだった。
有り得るのだろうか? まさかと思う。だが、彼らの一直線なまなざしが私に疑うことを許さなかった。
「…………」
しばしの沈黙ののち、私は剣の柄にかけた手を放した。
やはり、全ては彼らの思惑通りだったのだ。
ただ一つ、ここで私に見つかったこと以外は。
二人の竜族は再びぴくりと肩を震わせたが、まだ構えを崩さなかった。
私はゆっくりと頷いた。
「ここで私に倒されるわけにはいかん、というわけだ」
返答はない。沈黙と、灰の降る音だけがあたりを支配した。
「通るがいい」
私は無造作に道を開けた。再び彼らは顔を見合わせた。私は瓦礫に腰掛け、首を振った。
「……竜族の大敵、"邪悪なる意志"が、ウェディの私に倒されるわけにはいかんのだろう?」