【注:ver3.5後期のストーリーネタバレを含みます】
最終話「夜明けまでは何マイル?」前編

あの戦いから半月ほど経っただろうか。
穏やかな南風が戦火の灰を払い、街は順調に復興を遂げていた。
率先して瓦礫を片付け、生活必需品の配給を行っているのはナドラガ教団……いや、ナドラガンド協団の団員達である。
トビアスはあの後、教団を解体し、宗教色のない互助団体として再生した。古い枠組みの解体と若き指導者の率いる新組織の誕生は、新たな歴史の象徴となるだろう。
各領界、そしてアストルティアの異種族とも手を取り合い、竜族の新しい世界を切り開くのだと協団員達は胸を弾ませていた。
その意味では、先日催された宴は大きな意味を持つことになる。
それは解放者と神官エステラの帰還、そして彼らの勝利を祝う宴だった。
無論、それはエジャルナの市民の勝利を祝う宴でもある。
旧大聖堂に各領界の主だった人物を集め、この記念すべき日を大いに祝福しようというわけだ。
ルシュカからは巫女フィナが、ムストからは疾風の騎士団の面々が。
カーラモーラのサジェ少年は、隣にイーサ村のリルチェラ、そして見慣れたキラーマシーンを引き連れていた。私の友人、ジスカルドだ。
確か、彼は何かの調査をするとかでジスカルドを助手に指名していたのだが……何故リルチェラが?
「まあ、色々あってね」
少年は眼鏡をかけ直した。後でジスカルドに聞いておこう。
「あっちこっちで色々あったみたいだねえ」
後ろから声をかけてきたのは私の相棒、エルフのリルリラだ。
解放者殿が重傷を負った際、リルリラは治療のために付き添ってムストへ向かった。彼女とはそれ以来である。
解放者殿の"治療"については人づてに色々と聞いたが……
「そちらも大変だったそうだな」
「ン……まあ、ね」
彼女はあいまいに目をそむけた。
集まった人々の間から歓声が沸いたのはその時だ。見れば、"神々の器"の面々だ。
王族二名を含む彼らは、アストルティアの代表といって良い存在である。竜族は拍手で彼らを迎えた。
アンルシア王女が手を振ると、リルリラは気まずそうに顔をそらした。怪訝に思い首をかしげたが、またもリルリラは目をそらす。
どうも……色々あった、らしい。
彼女はエステラ嬢の姿を見つけると満面の笑みを浮かべ、そちらに駆け寄っていった。
お茶会の約束は、果たされるだろう。