プクランドののどかな風が、甘い蜜の香りを運んでくる。見渡せば緑あふれるなだらかな丘の上に、ひときわ目立つ黄色いオブジェが立ち並んでいた。
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ここはエピステーサ丘陵地帯東部、通称ハニーレイク。甘ったるい名前の通り、居並ぶ六角形のオブジェは全て、天然の蜂蜜貯蔵庫である。閑静な田舎道に突如、精巧なハニカム構造が現れるのは、なかなかの壮観と言えた。
だがメギストリスはここを観光地として発展させるつもりはないらしく、観光客の姿は見えない。
それもそのはず。この土地は観光地としては少々物騒な側面を持っているのだ。
甘い蜜の香りと共に、物騒な羽音が聞こえてくる。
彼らこそ、この地のガーディアン。そして私のお目当てでもある。
「ああ魔法戦士サン、ようこそようこそ。そんじゃ、お近づきに印に蜂蜜どぞ」
「あ、これはご丁寧にどうも」
意外に友好的な殺人蜂であった。
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あのナドラガンドの動乱からはや数ヶ月。ヴェリナードへの報告を終えた私は長い休暇を取っていた。
もっとも、相棒のリルリラがナドラガンド各地を巡る旅に私を連れまわしたため、結局はナドラガンド漬けの休暇となってしまったのだが……戦いの終わった彼の地を新しい視点で観察する旅は、思ったよりも楽しいものだった。
なお、その旅においてこなした様々な仕事により、彼女はめでたく星三つの認定証とルーラストーンを授かったそうである。
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と、いうわけでリルリラのサポートもひと段落付き、そろそろ私も本来の職務に戻らねばならない。
だが、長い休みで私の実戦感覚もかなり鈍っている。まずはこれをなんとかしなければならない。
私は久しぶりに黄昏のグランゼドーラを訪れた。ドジョウ髭を神経質に整える奇抜な格好の紳士がそこで待っている。
「ンン、キミか。いいところにきてくれた。最近はナドラガンドの光景も描くことにしてみたのだよ。挑んでみたいとは思わんかね?」
ルネデリコのバトルルネッサンス。
例によって魔法戦士として、酒場で雇った冒険者と共に、道具禁止のルールでの挑戦である。
敵の名を確認しつつ武具の用意を開始するが、この時点で既に、勘が鈍っているのを感じてしまう。
どれくらい鈍ったのかというと、対即死攻撃用の装備をどこにしまったのか思い出せず、収納、倉庫から屋根裏まであらゆる場所を探した挙句、手持ちの装備袋から発見するほどの鈍りようである。
「いや、お前は元からそんニャ感じだけどニャ」
猫がのどかに欠伸した。
しかし復帰戦の相手はこの猫ほど、のどかではなかったのである。