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「ニャルプンティェィェィェ!!!」
炎の聖塔に猫の雄叫びがこだまする。蜂の群れはあっさりと眠りに落ちた。
女王蜂は流石に耐えたが、一体ならば僧侶二人で充分回復は間に合う。
突破口は意外と身近なところにあったらしい。
猫魔道のニャルベルトが働き蜂を足止めし、私が女王蜂を相手取る。僧侶二人がそれを援護する。
これまでの挑戦に比べ、戦況は格段に安定したと言えそうだ。
だが、あくまで敵が眠っていることが安定の条件。敵が一斉に目を覚ましたなら。その時、ニャルベルトが倒れていたなら、あるいはニャルプンテを使わず、うっかり杖で殴ってしまったなら……
「まあ、運が悪かったってことだニャ」
「いつも思うことだが……何故杖で殴る」
「そこは譲れない拘りニャ」
まっこと、猫とは御しがたい。
こうした不幸な事故が何度か起こり、3度の敗北を喫したものの……4度目の挑戦でようやく女王蜂は地に落ちた。
まずまずの戦果と言えるだろう。
「これにて一件落着ニャ」
「いや、まだ仕上げがある」
「ニャ?」
実は、ニャルベルトが通用しなかったら試してみようと思っていた戦術が一つある。
それは、長年くすぶり続けていた、ある魔物の起用である。
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フードの中、底知れぬ暗闇に赤い瞳が怪しく光る。ボロボロのフードが風に舞い、足元には色鮮やかなショコラリップが生い茂る。
紹介しよう。彼こそが我が家の畑番、闇縛りのシェイド。
素質を見込まれながらもこれといった出番が無く、畑の世話という形で長らく貢献してくれていた縁の下の力持ちである。
「……どうも、よろしくお願いします」
非常に礼儀正しい。
彼の得物は斧だが、私が買っているのは斧使いとしての攻撃力ではない。幻惑や麻痺を引き起こす、闇縛り独特の戦法こそが彼の持ち味である。
ニャルベルトの代わりに彼を連れてもう一度、女王蜂に挑んでみたわけだが……
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「……縛らせて、頂きます。惑わせて、頂きます。嘆いて、頂きます」
噴き出す怨念の霧を前に、蜂の群れは大混乱に陥った。その様、さながら殺虫剤を吹きつけられた虫の如し。
ニャルベルトとの違いは、効果の継続性にある。
ニャルプンテで運よく女王蜂が眠っても攻撃すると目覚めさせてしまうが、幻惑や麻痺ならば気にせず攻撃できる。これにより、雑魚のみならず女王までも無力化できるのだ。
これまで日陰の存在だったシェイドだが、ついに花開いたというべきか。
「花を開かせるのは私の日課です」
……引き続き、畑の方も頼む。
こうして、シェイドの活躍により女王蜂との戦いは完全勝利に終わった。
私の実戦感覚も、それなりに戻ってきた、ような気がする。
「ンン、悪くないがねェ。まだまだ絵は残っているのだよキミ」
幻想画家が髭をしごく。
残るはピナヘトの眷属。キノコの巨人とフィルグレア。
恐らく、これまで以上に厳しい戦いになるだろうが……
「ま、いずれ……」
挑戦してみることにしよう。
新しい時代に向けての、肩慣らしである
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