嘆きの霧が氷の彫像を包み込む。幻惑を得意とする魔人が自ら幻惑される姿はなかなかの見ものだった。
闇縛り、シェイドの再起用。
既に一度試した幻惑戦術、パーティの火力不足を理由に一度は却下された戦術だった。
だが、クリスタルさえ万全に働いてくれたなら、火力不足などあり得ない話である。
クリスタルを守るための幻惑。これが再起用の理由であり、先の幸運な勝利がもたらしてくれた閃きだった。
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霧に包まれた氷魔は、エステラ殿が召喚したクリスタルの位置さえ見失っていた。動かぬ結晶を相手に何度も攻撃を空振りする。
後はミラーリングとクリスタル召喚のタイミングが重なるかどうか。こればかりはエステラ殿を頼るしかないが、漫然と挑んで幸運にすがることと、意図をもって確率に賭けることは似ているようで違う。
結果……
たった1回の挑戦で見事、撃破に成功。
これまでの苦戦が嘘のようである。
氷の彫像が砕ける。
闇縛りの振りまく嘆きの霧が、私の心の霧を晴らしてくれた瞬間だった。
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紅蓮のクイーンビー戦に続き、またもシェイドの大殊勲である。これまで出番のなかった彼が、一つの時代の締めくくりに輝いたわけだ。これは勝利と同じくらいに嬉しいことだった。
次の時代には、どんな驚きが待っているのだろう。
どんな魔物が、どんな職業が輝くのか。そして魔法戦士はその中で何ができるのか。
木枯らしの声が、次の季節の訪れを囁く。
その時は、もう目前に迫っていた。