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雪残す地平線。そびえる山々。谷間に広がる集落を厳めしく見下ろすは獅子の彫像。ここは獅子門。
地を見下ろせば、巨人の腕が大地を抉ったような裂け目が東西に走る。地の底には、恐ろしいほどの光を放つ"光の河"が延々と広がっていた。
オーグリード北部と中央部を隔てるこの河を渡るには、ここに架けられた橋を渡るしかない。
自然、この地は交通の要衝となった。人が集まり、商人が集まり、村が生まれた。これを獅子門の集落という。
だが橋を渡ろうとするのが善良な旅人だけとは限らない。悪事を働いて僻地へ逃れようとする者、都会で"一稼ぎ"しようと目論む盗人たち。
そして……
「魔物の軍団だ」
耳当てから繋がった通信機に本部からの通信が入った。ドルワームの学者たちが再現した古代の交信器具のレプリカらしい。通信相手は副団……Y氏。
「斥候から、もうじき集落の北側に到達するとの連絡が入った。心せよ!」
7人の志願兵が力強くうなずく。一歩遅れて、私もうなずいた。
これが今回の同盟相手。アストルティア防衛軍に志願した冒険者たちだ。
いずれも一癖ありそうな顔つきである。バトルマスター、武闘家、僧侶に賢者、魔法使い。槍を手にしたパラディンもいる。
そして私の隣に立つ、巨木のような大剣を背負ったオーガの戦士。筋骨隆々の体つき、立派な顎ひげを蓄えた、精悍な顔立ち。いかにもベテラン兵と言った風情である。
頼もしくもあり、恐ろしくもある。私のような新米が、彼らの足を引っ張らずにいられるだろうか……?
身震いと共に腰の剣を改める。それでも魔法戦士団の一員として、名に恥じぬ戦いをせねばならない。
「諸君らの後ろにある門が最終防衛ラインだ。門を破られぬよう気を付けてくれ」
耳元で、通信音が遠く聞こえた。背後には光放つ門、そして紋。この防御結界が我々の守るべき城である。
アストルティア防衛軍には各国の最新技術が投入されている。この結界や通信機もそうだし、我々をこの地に送り込んだバシルーラの呪文も、かつて魔王から秘術を盗み取ったとされる魔女の末裔を雇って実現したものである。
魔女たちにはまた別の使命もあると聞いているが……それを目の当たりにできるかどうかは私次第。
「パターン・パープル。紫炎の鉄機兵団と特定。サン、ニイ、イチ……作戦開始!」
号令の元、戦士達が一斉に動き始めた。