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獅子門。
煌々と輝きを放つ"光の河"を境に二つに分かれた大地。その北側で冷たい輝きを放つ鋼の機兵に挑みかかるのは、熱い息を吐く8人の戦士達だった。
木造の橋を打つ足音が、大地を蹴る音に変わる。と 四本足から金属音を放つ機兵たちが迎え撃つ。
敵影……などという生易しいものではない。私がそこで見たのは、大地を埋め尽くす機械兵士の群れだった。
表情のない顔が一斉にこちらを向く。腕に備え付けられたボウガンが次々と甲高い音を立てて矢を射出する。
一方、一丸となった防衛軍は霧の鋭さで敵の懐に切り込んでいく。
降り注ぐ鋼の雨をかいくぐり、戦士達は鉄の兵士に肉薄した。
白刃が閃く。武闘家の棒術が機械の脚を薙ぎ払い、パラディンの槍が居並ぶモノアイを突き破る。戦士の大剣がうなりをあげ、魔術の使い手たちは静かに結んだ印の内側から爆光をまき散らす。
爆音。うっすらと大地を覆っていた残雪が刹那にして四散し、代わりに灼鉄が横たわった。
その残骸を踏み越えて、次の機兵が進軍する。中隊長クラスの姿もある。二体目!
敵また敵の乱戦となった戦場を見下ろすのは、一際目立つ巨大な機兵だった。
滅機将の名で呼ばれるこの軍団の総大将だ。
術師たちの魔法が、戦士たちの打撃が何度となくその巨体を巻き込んだはずだが、びくともしない。
ならばと私はフォースブレイクを撃ちこむ。それを合図に、同盟軍の仲間たちが一斉に斬りかかった。
鋼と鋼が打ち合う音が戦場に響く。その音に耳をふさぐかのように、滅機将のモノアイが瞳を閉じた。
やったか……?
だがその歓喜は一瞬ののち、怖気に変わった。巨機兵は剣を構えたまま動かない。それは達人の居合が放たれる直前の、一瞬の沈黙に似ていた。
何かを感じ取った兵士たちが一斉に距離を離す。刹那、巨大機械は鋭く上半身を回転させ、周囲を薙ぎ払った。
空気を裂く剣閃と共に、苦悶の声が上がった。
逃げ遅れた戦士が深手を負う。僧侶が慌てて治癒の呪文を詠唱する。そこに特攻機兵が矢を射かけた。
続いて四足の機兵たちが雪崩れ込む。劣勢!
辛うじて剣を振るい、その進行を押とどめる我々の耳に、更なる凶報が届いた。
「橋の南側に敵機出現!」
南側だと!?
全身から冷や汗が噴き出した。
不覚である。敵が転移の術で攻め込んでくることを失念していた。南門にある防御結界は今、丸腰だ!
襲い来る兵団に足止めの一撃を打ち込み、防衛軍は後退を開始する。兵士達の足音が吊り橋を揺らした。急げ!
必死で南側へと走る。揺れる視界の彼方に敵影。向かい風が冷や汗をなぞり、ぞっとする寒気が体を襲った。橋を渡ってきた時の高揚は既に抜け落ち、ただ焦燥だけが胸を焦がしていた。