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北から南へ。戦場に架かる橋を兵士達は駆け抜ける。
やがて敵影が近づく。烈風が土煙を払い、その輪郭を明らかにした。
宙に浮く剣呑なシルエット。特攻機兵! 三機目か!
無人の野を我が物顔に往く機械兵士は、尾につがえた矢で集落を蹂躙するかに見えた。
だが、その手前……鋼の機兵に比べればよほど小さなシルエットが、彼の行く手に敢然と立ちふさがっていた。
バトルマスター! 手にしたハンマーを巧みに操り、機兵の進軍を押とどめる。彼は南側が狙われることを予期し、早めに北の戦線を離脱していたのである。
そして今、出遅れた我々のために敵を足止めしている。
頼れる仲間だ……!
思わず口元が綻ぶ。
私は橋を渡り終えると一気に加速して特攻機兵に狙いを定めた。本日三度目のフォースブレイク!
戦士が追い付く。両手剣の一撃が鋼を打ち抜き、火球がそれに続く。
だが、敵も中隊長クラス。一気に倒しきるまではいかない。
心なき機兵は明確な殺戮の意志を孕む単眼を赤く輝かせ、重厚な金づちで地を穿つ。と、隆起した大地が兵士たちを跳ね上げた。
寒空に鐘の音が低く鳴り響く。重く、強く……その音に引き寄せられるかのように、他の機兵たちも続々と姿を現した。
「魔鐘出現!」
誰かが叫ぶ。私は周囲を見渡した。いつの間にか、あの鐘だ!
次々と魔機兵が沸き出でる。何人かが鐘を落としに戦線を離脱した。その間、支えきれるか!?
特攻機兵が矢を放つ。四ツ脚が大地を蹂躙し、小型の浮遊機械が鋼の翼で戦場を飛ぶ。北側に続き、こちらも乱戦、だ!
もはやリスクを背負わざるを得ない。私は意を決し、全身の魔力を収束、マダンテの呪文に集中し始めた。
タイミング次第では自滅となってしまうこの呪文だが……ここは賭けだ!
凝縮された魔力が視界をゆらゆらと歪曲させる。群がる敵影、その中に華が舞う。戦場にあるまじき、鮮やかな桃色の花びら……混濁した意識が見せた幻か? いや、違う。武闘家の扇だ。艶やかな舞が私の魔力を増大させ、敵の抵抗力を奪う。
……臨界! 私は収束した魔力を暴走させた。
解き放たれた魔力の渦が周囲を薙ぎ払う。戦場に一瞬の空白地帯が生まれた。特攻機兵が、四ツ脚が、敵の群れが地に落ちる。
その戦果に私自身が驚いていた。自分一人の力ではありえない。普段とは出力が段違いだ。私は傍らの武闘家を見た。彼は軽く扇を振ってこたえた。的確な、そして絶妙な援護だった。
同盟兵も無事、魔鐘の討伐を終え、戦況がひと段落ついたころ、巨大な足音が大地を揺るがした。
誰もが振り返る。悪寒と共に。
腹の底に響くその音は、戦の主役が主戦場に到達したことを告げる軍鼓の響きにも似て敵対する者の心を威嚇し、戦慄せしめたのだ。
「大物、南側に到達! 冷静に対処せよ!」
巨大な影が兵士達の頭上を覆う。忘れようもないそのシルエットは、北の戦場で我々をさんざんに打ちのめした滅機兵。
総大将のお出ましである。