静止する巨像のような滅機将を背に、無数の機兵たちが地を駆ける。それを追って、兵士達もまた風を纏い走っていく。
敵味方が入り乱れ、混戦模様だ。怒号と鋼の打ち合う音が響き、耳鳴りのような金属音がこめかみを貫く。
「南……支援物……届……」
通信の声もよく聞こえない。走り抜ける戦場の中、設置されたコンテナが崩れ、何かがポーチに紛れ込んだ気がする。支援物資か!?
確かめようとする私の耳に仲間の声が響いた。
「門が狙われてるぞ!」
誰かが叫ぶ。
がりがりと戸に爪をたてるが如く、門に押し寄せた機械兵士たちは結界を切り付け、削り取る。一撃ごとに光が拡散し、蛍光色の飛沫となってあたりに飛び散った。
各自に持たされた通信器具が、結界の残エネルギー量を報告する。まだ余裕はある。だがこの速度で削られ続けたなら、いずれ……
兵士たちは慌てて追いすがる。一足先に門へとたどり着いた私は結界を背に守りを固めた。さあ来い。私を狙え!
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その言葉に応えるように、機械仕掛けの矢が私を狙う。盾を押し出し、辛うじて防ぐ。何本かが私の身体をかすめた。そして……
……残りの矢は、そのまま結界へと吸い込まれていった。通信器具が結界のエネルギー低下を知らせる。
機兵の群れは続けざまに私をめがけて矢を放つ。すなわち、結界の方角へと……エネルギー低下、低下、低下……
……どうも、この位置に陣取るのは逆効果のような気がしてきたぞ……。
「こっちだ! こっちを狙え!」
野太い声が響く。同盟軍のパラディンだ。ガートラント聖騎士隊に伝わる伝統的な技が門への攻撃を締め出し、全て自分へと向ける。僧侶の呪文がそれを援護する。鉄壁の守りだ。
どうやら、壁役は彼に任せた方がよさそうである。
私はやや門を離れ、敵機の迎撃に専念した。
敵影多数。大地を埋め尽くす。鉄の群れ。落せど落せど押し寄せる。まだこんなに残っていたのか!?
「魔鐘、出ているぞ!」
通信の声にハッと顔を上げる。気付けばあの低く重い音が戦場に響いていた。ガラン、ガラン……魔性を呼ぶ魔鐘。乱戦の原因は奴らか!
慌てて鐘の姿を探す。どこにいる!? 多重音が方向感覚を狂わせる。二機、いや三機は出ているか!?
私がようやく場所を特定した頃、仲間たちは既に魔鐘の元へと集っていた。
よくもこう、機敏に対処できるものだ……感心しつつ彼らの所作を観察していると、妙なことに気づいた。戦いのさなか、こまめに手元に目を移している。あれは……私は慌てて自分の手元を見る。通信用の小型レーダー。電子的に描かれた地図に敵の反応が踊る。
そしてそこにひときわ目立つ、ベル型のアイコン。
彼らが確認していたのはこれか!
頭の霧が晴れるとともに、情けない気分も押し寄せる。レーダーの放つ無機質な光は、ずっと手元で道を照らしていたというのに……。
つくづく勘の悪い私だ。これが遅すぎる気付きでないことを祈ろう。
「門が!」
仲間たちの悲鳴が聞こえる。レーダーも叫んだ。結界エネルギー指数、20%未満!
汗を飛び散らせながら門へと走る。剣に理力を込め、敵を切り裂く。だがどれほどの効果があるものか。つくづくドラゴンビートが無いことが悔やまれる。
門の前は乱戦状態となった。兵士達それぞれの技が敵を打ち倒す。敵機はその合間をついて門へと取りつく。戦士は引きはがさんとその背中を撃つ。その背後には、さらなる後詰が怒涛のように押し寄せる……
「中隊長クラス。さらに出現!」
四機目か! 浮遊機兵が迫りくる。
そして飽和攻撃のさなか、絶望的な巨影がむっくりと起き上がった。
「大物、再起動!」
滅機将! 戦慄が戦場を包む。
全てを見下ろす巨大機兵が再び動き始めた。剣を振り下ろせば飛び散る土砂と共に大地が形を変える。おもむろに首をもたげた砲塔が重金属粒子を収束し、熱線として打ち出した。薙ぎ払う光線が大地を蹂躙し結界を襲う。パラディンが身を挺して門を守るが、いつまでもつだろう?
「魔鐘出現!」
さらなる増援だと!?
数人が反応し処理に向かう。だがその分、門を守る戦力は減る。彼らが戻ってくるまで、それまで門はもつのか!? パラディンの守りも、もはや限界に思えた。
ガラン、ガラン……絶望的な音色が赤土を揺らす。何か手は無いのか! 結界、残り5%……!!
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その時、ふと私の脳裏に数分前の記憶がよみがえった。
コンテナ、切り札、……支援物資! あの時、私は何かを手に入れたはずだ。
すがる思いで私はポーチの中を改めた。
そこに格納されていたのは、一枚の古びた札だった。
記されたルーンは恐らくは古代エルトナのカンジ。私には解読不能な代物だったが……ええい、ままよ!
迷っている暇はない。私は札を天に掲げた。