調査記録を更にひも解く。
彼らが発見したのはレトリウスの英雄譚だけではない。さらに進んだ時代のエテーネ王国の様子もいくらか明らかになった。
「錬金術と予言を礎として栄えた王国か」
「ええ。エテーネの王は神託を預かる祭司の側面を持っていたようです。これは非常に興味深い話です」
人が集まればそれを総べるための宗教が生まれ、祭司は指導者となる。指導者はやがて王となり……典型的な国家の成り立ちをエテーネ王国も歩んだものと思われる。
「だが、気になるな」
私は調査記録の一部を指さした。
「レトリウスの石碑では、予言を行ったのは彼の盟友だというじゃないか。キュルル……いや、キュルルス……だったか……?」
キュレクス、とあった。神智の放浪者と呼ばれた人物で、彼の予言は建国王を大いに助けたという。
ところがいつの間にか、予言を操るのはエテーネの王……レトリウスの子孫となった。
「どう思う? キンナー」
「さて……キュレクスの家系とレトリウスの家系がどこかで交わった、という可能性はありますが」
なるほど、妥当な意見だ。だが私は妙に引っかかるものを感じていた。
レトリウスにとってキュレクスは永遠の友、とある。そしてエテーネの語源はエターナル……。偶然だろうか。
「謎が謎を呼ぶ、ですね」
嬉しそうにキンナーは回った。調べれば調べるほどわからないことが増える。学者たちはそれを楽しんでいるようなフシさえある。困ったことに、私もその空気に侵されつつあるようだ。
ともあれ、今回の調査はこれで終わりである。
修道院からマザー・リオーネが手を振った。会釈を返しながら調査団は帰路につく。
上空を舞うソーラドーラが高く鳴いた。空と海の間、揺らぐ波しぶきの向こうから真実が顔を出すのはいつの日か。
まだ当分は、学者たちと付き合うことになりそうである。