なりきり冒険日誌~王たる者の資質(1)
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夜のとばりがプクランドの空に降り、町は青に包まれる。閑静に静まり返った住宅街と裏腹に、いまだ明かりを灯すアーケードがメギストリスの都をよく表していた。
カラーリング、ドレスアップ、そしてサロン・フェリシア。アストルティアのファッションはこの町から始まる。昼夜を問わず足しげく通う旅人たちが、この都の東半分を不夜城に変えた。
ノーブルコートを支給されるまでは、私もあの一角に世話になったものだ。いや、今でも世話になりたい気持ちはやまやまなのだが、このコートはほぼカラーリングを認められていないのだから仕方がない。
そしてこれまでに入手した王者の武具もまた、一切のカラーリングを認められていない。
この都に伝わっているという王者の小手についても、期待はしない方がよさそうだ。
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メギストリス王宮。身の丈を大きく超えた豪華な玉座に、ちょこなんと飾られた少年がラグアス王子。いや、今はラグアス王と呼ぶべきか。
誠実な人柄は私自身、よく知るところであるが、即位からまだ日が浅いためだろうか。私が差し出した女王陛下からの親書を受け取る仕草も、どこかぎこちなく見える。それは王者の武具の探索についても同じことが言えた。
すぐさま調査隊を動かしたヴェリナードの女王陛下。故事に明るいバショオ殿を旅の空から呼び戻したニコロイ王。そして自らその任に当たったウラード王。このお三方に比べ、ラグアス少年王はなんら具体的な手を打てていないようである。
王たる身の苦労など、一回の魔法戦士である私にはあずかり知らぬ世界だが、部下を使うにも自ら動くにも、相応の知識と経験が必要となるのだろう。父王の死を乗り越え後を継いだ彼であるが、未だ玉座を手中にするには至らず、といったところだろうか。
彼が国政を牛耳るまでどれくらいの時間がかかるのか、我がヴェリナードとしても慎重に見極めなければならない。
国乱れて忠臣現る、とは限らず、幼君が立てば佞臣が現れることもある。万一の場合にはヴェリナードとしても進退を誤るわけにはいかない。他国の政治に干渉するつもりは無いが、少年王の動向には今後とも注目せねばならないだろう。以上、魔法戦士としての私の意見だ。
さて、王が動きを見せてくれないならば独自に調査を開始せざるを得ない。だが、何の手がかりもなしに伝説の武具を探すなどというのは、雲をつかむような話だ。
ほとほと困り果てていた私は王宮の中庭にふらりと足を運び、そこで我が目を疑うことになる。
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薄い。
存在が薄い。
影の薄い人物なら何人も知っているがこれは群を抜いている。いや、影以上に体が薄い。
私が凝視していると、彼はその透き通った瞳を……透き通っていない場所は無いのだが……こちらに向け、語り始めた。
自分が古き王の命により、王者の武具の伝承を任された存在であること。代々の王が風車塔の儀式で命を落とすことを運命づけられていること。
そして風車塔とは別にもう一つ、王位継承の儀式を行うための塔が存在したこと。
王者の武具はそこにあり、というわけだ。
事情を聞き、塔へ行くための準備作業を仰せつけられた。
それは良いのだが、なぜ古代の王は書や口伝に残さず、亡霊をメッセンジャーに仕立て上げたのだろう。それほどまでに人に知られてはならない秘密ということなのだろうか。
何百年先になるかわからない使命のため、この世にとどまり続けた彼の心中やいかに。使命感か、忠誠心か。
プクリポの人形のような顔は、その気になればいくらでも感情を隠すことができる。彼らは天性のポーカーフェイスだ。まして半透明な顔とあっては、その心の奥をうかがい知ることはできそうになかった。
私にとっては、古代人の知り合いがまた一人増えたことになる。これから先、どんな人物と出会うことになるのやら、楽しみでもあり、不安でもある。