かつて大空に羽ばたきし黒翼の鳥よ。
今一度、飛び立つ時が来た。
長き雌伏の時を超え……
悠久の眠りの彼方より、蘇れレイブン!
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私は悠久の眠りの彼方、すなわちタンスの奥から久しぶりの装備を取り出した。少々皺が寄り、埃をかぶっている。かなり古臭い。
だが、手に馴染む。
レイブンスーツ。大ガラスをモチーフにしたという奇抜なスーツだが、その汎用性から多くの冒険者に愛された防具である。
特に魔法戦士にとっては重要な装備で、レンダーシアでの冒険のほとんどをこのスーツと共に過ごした者も多いだろう。私もその一人だ。
最近では他に良い装備も増えたため、このスーツとも疎遠になっていたのだが……
「もう一度、役に立ってもらうぞ」
かつての相棒を私は叩き起こした。
私は今、ある戦いに身を投じている。
人呼んで、聖守護者の闘戦記。あまり詳しいことを語ると隣の少年が怖い顔をするので仔細は省くが、兎も角、かなりの強敵である。
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チーム"豊穣の月"の仲間達と共に挑んだものの、初日はあえなく敗退。翌日は更に力を増した"魔祖の血族"の力に為す術もなく敗れ去った。
再戦を誓い、戦場を後にした我々だったが、ここからが冒険者の冒険者たる所以。
ある者は友人を通して情報を集め、またある者は装備を新調し……強敵を前にした冒険者は、むしろ生き生きとした表情で、精力的に活動を開始したのである。
これが冒険者のサガか。ま、私も人のことは言えないのだが。
魔法戦士の私が目を付けたのは、敵が闇の力を多用する点だった。
これを完全に封じ込めることができれば、敵の猛攻をしのぐ糸口になるかもしれない。
つまり装備を整え、闇属性への完全耐性を身に着ける。
魔蝕と闇のブレスを無効化できれば、呪い、幻惑、混乱への耐性は不要となる。
シャドウウィスパーや邪魂冥道波といった大技が闇属性でないことが残念だが、やってみる価値はあるだろう。
通常、完全耐性を実現するには高級な防具が必要となる。口惜しいことに、私はあまり裕福な方ではない。
だが我々魔法戦士には、いくつかの抜け道がある。
その一つ目が、このレイブンスーツ。闇の力を大幅に防ぐ。
次に聖騎士の大盾。これも闇の力に強い。
そしてダークフォースの宝珠。ダークフォースを身にまとっている場合に限り、闇への対抗力を獲得できる。
幸いなことに敵は(意外にも)ダークフォースに弱いようだ。これが追い風となる。
後は他の職と同じように闇耐性の宝珠、氷闇の月飾り、ダークタルトを揃えることで完璧に近い状況を整えられる。
内訳をみてみよう。
レイブンスーツ:20
聖騎士の大盾 :10
ダークフォース:11
闇耐性宝珠 : 6
氷闇の月飾り :29
ダークタルト3:19
これで95。残るは5%。
幸運にも、6%の闇耐性を錬金術で上乗せした聖騎士の大盾がタダ同然の値段で叩き売られていた。即決で購入し、100%を実現する。
これが吉と出るか凶と出るか……
仲間たちもそれぞれに準備を整え、開戦三日目。敵の力が弱まったところを狙っての再戦となった。
戦いは熾烈を極めた。
当然のことながら敵の攻撃全てが闇属性というわけではない。
さらに、シャドウウィスパーを喰らってしまえばフォースを剥がされたうえにせっかくの属性耐性を大幅に下げられてしまう。
倒れるたびにフォースを使い直す必要があるのも痛い。何しろ、相手が軽く小突いただけでこちらには致命傷なのだから。体勢を立て直している間にまた倒され……後手後手の展開だ。
だが私はともかく他のメンバーは熟練の冒険者である。徐々に敵に対応していく。私も辛うじてそれについていく。
アイギスの守りとフォースで防御を固め、攻めに関しては強化状況が万全でなくても思い切ってフォースブレイクを撃つ。整うのを待っていては、いつまで経っても撃てないからだ。ここで必要なのは切り捨てる勇気。
そして幾度かの挑戦を経て……我々は辛うじて敵を撃退することに成功した。
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綺麗な勝ち方とは言えない。しかも敵はまだ実力を隠している。まだまだ戦術を見つめ直す必要があるだろう。
だが私はそれなりに満足していた。
初挑戦の時にはまるで勝ち筋の見えなかった戦いに、ひとまずの足がかりができたのだ。それも、魔法戦士独特の方法で。
古くなった装備、これまで日の目を浴びなかった宝珠。それらを駆使して戦うことができたのは、私としては楽しいことだった。
敵が更に力を高めた時、同じやり方が通じるのかどうか、それはわからないが……
まずは1勝。次に繋がると信じ、私は……
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……より優秀な聖騎士の大盾を求めて、懐かしの竜騎兵と修業に明け暮れるのだった。