(※注:ver4.0までのストーリーに関する記述を含みます)
最近、妖精をよく見かける。
今も私の前をひらりと通り過ぎていった。
緑色の、楕円形で、死んだ魚のような目と黄色い嘴を持つ。無表情に宙を舞い、たまにサッカーボールを蹴っている。
……別に私の頭がおかしくなったわけではない。
世界宿屋協会が冒険者向けに発売したこの自動人形は、時の妖精をモチーフにしたものだそうだ。
妖精というからにはもう少し可愛らしいものかと思っていたのだが、この外見からは胡散臭さしか感じられない。あまりに胡散臭いので一応、写真に撮っておこうと思ったが、フレームに入る前に通り過ぎてしまった。仕方ないので代替品を置いておく。

妖精と言えば……
先日、フィロソロス氏の研究室で読ませてもらったレポートの中に、妖精に関する記述があった。古代エテーネ王国の成り立ちに関する調査記録だ。
例によって、教授の"個人的協力者"によるもので、レポートとしての体は成していないが、興味深い内容だった。
何かの役に立つかもしれない。覚書としてここに記しておくことにしよう。

* * * *
レトリウスには二人の盟友がいた。予言者キュレクスと錬金術師ユマテル。
レトリウスは王となり、ユマテルはアルケミアを設立。歴史にその名を残した。
だが"予言者"キュレクスの足跡はここで途絶える。
そして王国には、"予知"の力を持つ箱が残された。
何かの関連を疑うのは邪推ではあるまい。
"錬金術"の粋を極めて作られた箱を"王"が使い、"予言"を為す。それがエテーネ繁栄の秘密。
まるで始まりの三人が手を取り合い、未来を築いたかのように。
彼らは"永遠"の絆を誓い合ったという。"エテーネ"の王国を。
レトリウスがキュレクスに助言を求めるように、エテーネの王は箱に予言を求める。
まるで、箱の中に永遠の盟友キュレクスが住みついているかのようだ。
箱の中に住む人間……笑い話だ。だが錬金術という代物は笑い話を笑えない話に変えてしまう力を持つ。
第一、私は知っているではないか。箱の中に住んでいる"あいつ"を。
妖精を名乗る"あいつ"……未来を語る"あいつ"……
銀の箱に時折浮かび上がる、幾何学模様……。
時見の箱には、同じ紋章が描かれてはいなかったか……? 思いだせない。
私は何を相棒にしてしまったのだろう。
箱の中の妖精は、私にどんな未来を見せようとしているのか。
今はただ進むしかない。この箱を託してくれた人の、意志を信じて……
* * * *

……レポートはそこで終わっていた。手記とでも呼ぶ方が正確か。
この手記の作者が一体、何を見てきたのか。正確なところはわからない。
だが、どうやらこの人物が知る妖精には、古代史に関わる秘密が隠されているらしい。
私も調査団と共に歴史を追いかけている一人。歴史書に妖精の名が出てきた時には、気を付けることにしよう。
旅人たちが駆け足で私の前を通り過ぎる。緑の妖精が風に乗って、それを追う。途中、ふと立ち止まって何かに手を振る仕草をする。
相変らず、胡散臭い顔をしていた。