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海峡に日が沈む。
海に溶けていく夕陽を背に、街道と並走する大陸間鉄道が岩山を潜り抜け、力強い汽笛が宿場町に響く。
その音に見送られるように、私は宙に踏み出していた。
ふわりと浮遊感。ぐらりと傾く景色。空が足元に、海は頭上に。胃の腑が裏返るような窒息感が胸を締め付ける。
……落下!
景色が拡大しながら縮小していく。沈みゆく太陽が、私の視界を覆い尽くす。
風斬り音の向こうに響く潮騒を、やけにはっきりと感じていた。
なぜ、こんなことになったのだろう。
混ざり行く空と海の間で、私はこれまでの経緯を思い出していた。
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南北オーグリードを隔てるゲルト海峡は、大陸を行き来する旅人達の第一関門である。
旅人たちはこの海峡を越え、そびえ立つ雄峰ランドンを乗り越え、さらにザマ峠を超えてようやくガートラント地方へとたどり着く。その道のりの険しさ故か、南北の交流は盛んとはいえない。
結果的に宿場町である海峡の宿にも、人はまばらだった。
ゾンガロンの行方を追う我々はここでひとまず休憩を取り、明日からの山越えに備えることにした。
……したのだが。
一人、休まない男がいた。
誰あろう、エリガンである。
彼はここでもゾンガロン時代の伝承についての聞き込みを怠らなかった。熱心なのは良いことだが、今にして思えば少々ワーカホリック的である。休ませるべきだった。そうすれば、こんな事態も防げただろうに……
彼は決して聞き込み上手なタイプではない。人柄は真面目なのだが、第一印象が固く刺々しいところがあるのだ。古文書とにらみ合うような目で他人を見つめてしまう癖がある。
だが粘り強さは天下一品だ。彼は苦労して当時を知る人物を探し当てた。
バンジー屋の通称で呼ばれるバジエド氏がそれだ。
……それが私の不幸であった。