なりきり冒険日誌~万年雪の番人
アストルティア経済の中心、オーグリードを二分する大国のひとつがグレン。その統治者の前に跪き、私は女王からの親書を献上した。
さすがにグレンの支配者だけあって話は早く、すでに王者の武具の所在は掴んであるという。首飾りの呪い一件では癇癖の強い暴君のようにしかみえなかったが、その本質はやはり優秀な王ということだろう。
王の引き締まった肉体と強い意志を宿す瞳は力の種族、オーガの長にふさわしい威厳を放っている。
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だが、その衣装はどうか。
……いや、他国の文化に口をはさむつもりは無い。無いがしかし、豪華なマントにパンツのみというファッションセンスは見る者を圧倒する。そしてまた、バグド王はその肉体を惜しげもなく開いて座っているのだから、正面で跪く私にはたまらない。
まして謁見者が女性であった場合、その辛苦は数倍に跳ね上がることだろう。
他国との交流には文化の壁が付き物。魔法戦士はこの苦難を乗り越えて戦わなければならないのである。
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ところ変わってラギ雪原。冷たい風が吹き抜ける。この雪原に四季は無い。山道を彩る針葉樹の幹も、その半ばを雪にうずめている。
動くものは雪原竜と白い悪魔。そして物言わぬ鋼鉄の戦士。ここは雪の大地。人ならざる者の領域。日が沈めば、雪さえも夜の青に染まる。
だが、こんな場所にも人類の暮らした痕跡はある。それは渓谷にかけられた橋であり、今は雪に埋もれた村落である。
一体いかなる者がこの地に暮し、そしてこの地を捨てたのか。おそらく、その歴史はグレイナル叙事詩の時代に遡ることになるのだろう。
アストルティアにはまだまだ多くの謎がある。今、その謎に関わっている暇はないが、旅を続けていれば、またここを訪れることもあるだろう。
さて、そんな極寒の地に一人立つ男。彼の名はガモフ。一族代々の伝統により、この地で王者の兜を守ってきたのだという。そして、すぐにでも王者の兜の元へと案内するという。
さすがは実用一途のオーガ族。これまでの経緯から、おそらくひと手間あるだろうと思っていた私を即座に迷宮へと導いてくれた。
その心意気と彼の一族に敬意を払い、剣を掲げてみた。
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仲間たちは妙に距離を置いた場所でその姿を見守っていた。視線が冷たいような気もするが、きっと雪のせいだろう。
試練自体にはこれといった問題もなく、王者の兜を手に入れた。
ガモフ氏はこれで自分の一族の役目も終わり、と胸をなでおろしていたが、果たしてそうだろうか?
次に異変が訪れた時のために、また新たな時代の王者を待ち続けることになるのではないかと思うのだが……
いや、そこはバグド王にそれなりの考えがあるのだろう。
今回の探索は目的地が最初から分かっていたこともあり、あっという間だった。オーガ族の情報管理のたまものである。
この実直、かつ実務主義の性格がオーグリードをアストルティア経済の中心たらしめたに違いない。我がヴェリナードにとっても見習うべきところは多い。もっとも、それが大半のウェディの気性に合うかどうかは別問題だが……。
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さて、ようやく揃った王者の武具だが、これといって特別な力は感じられない。そして見た目も思ったほどではない。特に兜のデザインが王者というよりは一兵士といった趣だ。
ためしに仮面もつけてみたが、余計に異様な姿になっただけだった。今のところ、ただの骨董品である。
だが何はともあれ、これで約束の品はそろった。
あとはロディア次第。かの姫の言葉に従うとしよう。