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砂しぶきが私の背ビレを激しく揺らす。乾いた風と砂塵の中に、黒い影が浮かび上がった。
私は歯を食いしばり、弓を構える。つがえた矢が激しく震えるのは、武者震いではない。
砂の海を高速走行する砂上船。それが今の私の足場だ。絶え間ない震動の中、狙いを定める。旋回する船の上から、立て続けに四射! 弾道が弧を描いて砂塵の中に吸い込まれた。
黒い影が一つ、倒れる。
だが舞い上がった砂が晴れると同時に、船上から悲鳴が上がった。
「そんな! また増えてる!」
「新手が五体、か……!」
私も顔をしかめた。
砂が散り、機械仕掛けの巨体が我々の前に姿を現す。
心なき兵士、砂の海の墓守。ウルベアの魔神兵と人は呼ぶ。
「仕事熱心もほどほどにしてほしいよね……」
一人、呑気なコメントを残すのは私の相棒、エルフのリルリラ。
生命の気配なきこの砂海で、我々はもう数刻も、機械兵との追いかけっこを続けていた。
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私の名はミラージュ。ヴェリナードの魔法戦士である。
数日前まで、ドルワーム騎士団からの要請により、このダラリアの守備任務に就いていた。ある強大な……そして巨大な……敵がこの地を狙っているとの情報があったためである。
その戦い自体は、ドルワームの臨時指揮官となったある若者と、彼が信頼する冒険者の働きにより事なきを得たのだが……
「諸君らの仕事熱心なことには、ただただ感じ入るばかりだ」
冷や汗をかきながら、あえて軽口をたたく。こういうのはリルリラ譲りの知恵だ。後ろではドルワームの研究員数名が顔を真っ青に……いや真緑に染めて絶句していた。
ダラリアから脅威が去るや否や、勤勉なる研究員たちは砂上船に乗り込み、この地の調査を再開した。古代ウルベア帝国時代の遺産が残るという砂漠の遺跡は、考古学的に計り知れない価値があるとされている。
実際、彼らはかなりの成果を上げたらしい。例えば、当時量産されていた反重力飛行装置の残骸。あるいは、当時の音声を記録した蓄音機……
だが彼らは勤勉過ぎた。夢中になりすぎた。一つ発見するたびに歓声を上げ、大はしゃぎする彼らの声は、墓守の安眠を妨げてしまったのだ。
地響きと共に、既に停止していると思われていた機械たちが体を起こし、レンズの瞳が冷徹な光を宿す……
かくして救難信号が発信され、戦後の後処理をしていた我々が駆け付けた頃、研究員たちは大破した船の上でマシン兵の群れに囲まれていたのである。
私とて魔法戦士団の一員。一体や二体ならば巨大な魔神兵とて相手取ってみせよう。
だが、一機倒すうちに二機が、二機倒すうちに四機が、遺跡の奥から駆け付ける。歴史の彼方から蘇り、次々と数を増やす機械兵はゾンビ―にも似た不気味な無機質を放ち、冷徹に、淡々と侵入者を粉砕する。
学者たちを守りながら戦うにはあまりに危険な状況だった。
そういうわけで、我々は乗ってきた船に研究員を収容し、一目散に撤収。
砂上の撤退戦が繰り広げられることとなったのである。
(続く)