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盾をサーフボード代わりに、砂の波に乗り、私の身体が砂漠に跳ねる。
さすがのウルベア魔神兵も、この突拍子もない行為には意表を突かれたらしい。
全て計算づく……とは言わない。偶然の成り行きとリルリラの閃き、そして開けた視界に感謝するだけだ。
今や私の身体は宙にあった。迫りくるウルベア魔神兵よりさらに高く。4000年、砂中に眠っていた機械の瞳が一斉に空を見上げる。
私は剣を抜いた。理力を込め、空を裂き、光の束を叩きつける。ギガブレイク!
白い閃光が走り、数機が倒れる。砂煙が舞い、砂漠に物言わぬ石のオブジェが出来上がる。私はその上に着地し、さらに次の機兵を迎え撃つ。
振り下ろされる鉄腕をかわし、徐々に沈んでいく足場を飛び回りながら私は剣を叩きつけた。さしあたり、この機兵に次の足場になってもらわねばならない。歯車の間に剣を押し込み、風雷の理力を流しこむ。機械の手足が痙攣し、煙を吹いた。
ひとまずの足場を確保し、一息ついたのもつかの間、砂の向こうから駆動音が次々と響く。まともにやり合える数ではない。
そろそろ船に戻らねば……
「ミラージュ!」
と、リルリラの声。続いて船に置いてきた弓が足場に投げ込まれた。
「戻ってくる前にもうちょっと足止めして!」
「人使いが荒いぞ!」
「仕事熱心なとこを見せてよ」
やれやれだ。機械並の勤勉さを求められても困るのだが……。
私は再び弓に矢をつがえた。確かに、ここからなら、船の上よりはじっくりと狙える。
標的は、空虚な命令を未だ忠実に守り続ける、主なき身の兵士たち。
「少しは休め。体に毒だ」
といっても機械のことだ。毒など気にすまいが。
私は黒の理力を矢に込めて、力強く弦を弾いた。続いて、視力の理力を載せた六連射。白と黒の反発が理力を爆発させる。
砂塵の彼方に爆光が広がった。
これであのワーカホリック共も、少しは休んでくれるといいが。
「そろそろ足場が沈む。助けてくれ」
私は船に向けて叫んだ。返事の代わりにロープが投げ込まれた。
あとは防砂ダムまで一直線。
こうして、砂漠の戦いは終わりを告げた。
かつて忠実な兵士だった機械の残骸を、流砂が音もなく飲み込んでいった。
「途中で止まったって良かったのにね」
リルリラが身を乗り出し、その姿を見送る。
「真面目過ぎたのさ」
私はヒレについた砂を払いながら相槌を打つ。
動き出した歯車は止まらない。忠実に、誠実に、歩み続ける。
彼らがもう少しだけいい加減だったなら、誰もが楽をできただろうに。
石の骸は、乾いた風にまぎれてもう見えない。
「しかし、いいコンビプレイでしたね」
難を逃れ、ようやく生き返った表情の学者たちが笑顔を見せた。懐には遺跡からちゃっかり持ち帰った古代の遺物……彼らも相当な仕事好きだ。
その中に一枚の古びた肖像画があった。
いかなる技術によるものか、そこに描かれた人物は数千年の時を経てなお、大まかな輪郭を保っていた。
「きっとこの二人も、いいコンビだったんでしょうね」
ドワーフは感慨深げに肖像画を覗き込む。
描かれているのはドワーフらしい小柄な女性と、長身の男が一人。
それがウルベア地下帝国のウルタ皇女と、彼女に仕えた宰相の姿だと判明したのは、その数日後のことだった。
(「砂漠の戦い」終わり。次回「ビーナスの涙」に続く)