ぼろぼろに朽ち果てた石の隙間から、古い空気が溢れ漏れる。学者たちはその瞬間を、固唾をのんで見守っていた。
ドワチャッカ大陸、ガタラ原野にひっそりと眠るウルベア地下遺跡。
複雑に入り組んだ地下迷宮の一角。誰にも知られることのなかった小さな扉が今、重々しく開かれたのだ。
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流砂の砂漠から戻った我々は、その足でこのウルベア地下遺跡に向かうこととなった。
かの砂漠の遺跡から、ウルベアの帝都を描いた地図が発見されたためである。
ウルベアの帝都が地下遺跡となってガタラ原野の西に埋まっていることは誰もが知っている事実だが、発掘された地図と遺跡の見取り図と比べると、かなりの差異があることがわかった。
つまり、まだ発見されていない区画が遺跡の奥底に眠っていることになる。
一つの発見が更なる謎への鍵となり、調査隊を次の探索へといざなったのである。
私は別段、彼らに付き添う義理は無いのだが、これも乗り掛かった舟。
ユナティ副団長への言い訳は、探索の間に考えておこう。
砂埃とかび臭い匂いが通り過ぎると、澄んだ冷気が我々の首筋を撫でた。3000年前の風だ。姿を現した大広間は時間という名の刃に切り刻まれてなお、硬質で重厚な威厳を醸し出していた。おそらく王宮の一角だろう。
ドワーフたちはごくりとつばを飲み込んだ。神妙な顔つきの奥に、知識欲と興奮の鼻息を抑えきれない様子だ。学者たちの蛮勇が3000年の埃を払い、王宮に新しい足跡を刻んだ。次々と。
私とリルリラは、その後をゆっくりと追いかけていった。
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いくつもの発見があった。
例えば、当時量産されていた反重力飛行装置の残骸。機械好きのドワーフたちにとっては、壊れていてもお宝である。
あるいは、帝都の人々の声を収録した音声記録。さすがに傷んでほとんと聞き取れなかったが、もし"解読"に成功したなら、当時を知る大きな資料となるだろう。
歴代皇帝の肖像画もあった。
中でも目を引くのは一人の少女だ。解読班の言葉を信じるなら、これは若くして父の後を継いだウルタ皇女……いや、女帝ウルタの肖像画らしい。
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特徴的な紫色の髪を赤い頭巾で包み、身にまとうのは簡素な白い長衣……伝説に語られるムーンブルクの王女でも意識したのだろうか?
ムーンブルクの王女といえば、一度は国を滅ぼされる憂き目にあい、自らも呪いに苦しまされながら邪教に立ち向かい、見事その陰謀を阻止した女英雄である。
……この辺はバズズたちの方が詳しいか。
だが学者たちの調査によれば、このウルタ皇女もムーンブルクの王女のように、多くの苦難を乗り越えてきた女傑であるらしい。
父であるジャ・クバ皇帝の暗殺事件。いつ果てるとも知れぬ隣国ガテリアとの戦争。
学者たちは次々と掘り返していった。巨大な地下帝国と、小さな皇女の物語を。
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やがてヒンヤリとした地下の空気がじわりと熱を帯び始めた頃、一粒の宝石が見つかった。
おそらく皇女の寝室と思われる上品な部屋の片隅。
小さな箱の中でひっそりと、美しく輝くその宝石に、誰もが瞳を奪われた。
ビーナスの涙。そう呼ばれる宝石だった。
(続く)