私の手の中に、青く輝く剣がある。
……ちょっと輝きすぎている。
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これは魔法戦士団の任務でプクランドに出張した際、妙にキリリとした顔つきをしたパクレ警部から買い取った品である。
残念ながら武器としては使い物にならなかったため、新しい剣のドレスアップに使わせてもらった。
そう、新しい剣……二本目となる邪紋の剣である。
「割といい値段したニャー」
猫魔道のニャルベルトがニヤニヤと私を覗き込んだ。
「そうだな」
私は目をそらした。
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いわゆる大成功錬金が一つある。しかも最大効果。普通の大成功と比べて評価値は1しか変わらないが、これだけは錬金石でまかなえない分、価格が大幅に上がるのだ。
誤差のような数値の違いに大枚をはたく。普段ならこんなことはしないのだが……今回の私には明確な目標があった。
翠将鬼ジェルザーク。奴が本気を出した場合、腕前は勿論、武器自体の強度も重要となる。
本気でない状態のジェルザークすら倒していない私には、まだ必要のない品ではあるが……いずれ挑んでみせる、という気概だけは持っておこうと、先行して購入しておいたのだ。
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「そりゃー、立派だニャー」
猫が白けた声で相槌をうつ。
「そうだろう」
私は相変らず目をそらす。
「で、コレだニャ」
ニャルベルトはアストルティア通信の最新号を突きつける。ひどい猫だ。せっかく私が目をそらしているというのに!
「ニャにニャに……星拳師シャドポン……力の限界を超えて次ニャる成長を……ニャンとかカントカ」
わざわざ読み上げた。血も涙もない。猫は肉球を私の肩に押し付けた。
「これニャら、無理に高い剣買わニャくてもよかったニャ」
「……他の装備の選択肢が広がるからいいのだ」
精一杯の強がりである。猫がため息をつく。
「お前は本っ当に商売が下手だニャー」
「あえて言おう。"これが冒険だ"」
こうやって環境の変化に一喜一憂するのもまた、冒険者の冒険者たる所以なのだ。
だから私は、実はそれほど後悔していない。
これがなくなった時、アストルティアは何の刺激もない世界になるだろう。変化こそが旅の本質だ。
「……それは強がりと本音とどっちニャ?」
「皆まで言わすな」
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かくして今日も風は吹く。次の風がどちらに吹くか、それは神のみぞ知ることなのである。